ビジネス最前線を経て気づき 起業とアートとの親和性アート×ビジネスで世の中をもっと面白く(3) uni’que代表 若宮和男

uni'que代表 若宮和男氏
uni'que代表 若宮和男氏

次代を担う「旗手」は何を感じ、何を考えているのか――。日本経済新聞社が運営する投稿プラットフォーム「COMEMO」から、「キーオピニオンリーダー」が執筆したビジネスパーソンにも役立つ記事を紹介します。IT関連ベンチャー、uni’que(ユニック、東京・渋谷)代表の若宮和男さんによる「アート×ビジネスで世の中をもっと面白く」、第3回は、アートとビジネスの密接なつながりについて語ってもらいます。

<<(2)データだけでは計れない 挫折が教えた「アート思考」

「アートとビジネスはなじまない」と一般的に思われがちです。そんな中で今、「アートシンキング(アート思考)」が注目されているのは、ビジネス、特にイノベーションやスタートアップ、新規事業立ち上げをめざす際に突き当たる「行き詰まり」を打破するために、アートに学ぶことが多いとわかってきたからだと思います。私自身、特に起業してからそのことを実感するようになりました。

アートの意義を探究し続けた

アートというものは、実用的な観点からみれば、生きるために「必要のないもの」に思えます。しかし人間は大昔からアートという営みを続けてきました。実用性のないアートを、なぜ人間は必要としているのか、人間にとってどのような意味があるのか。私は以前、そうしたことを考える「アート研究」をしていました。

私が最初のキャリアとして志したのは建築でした。建築がアートや歴史、工学、社会、ビジネスまで、さまざまな領域にまたがっているところを「面白い」と思ったからです。しかし、実際に設計事務所に就職してみると、地震大国である日本の建築には、想像以上に工学的な制約や法的な制限が多く設けられていました。しかも私が就職した1998年はバブル経済の崩壊後。クライアントの資金も限られていたことから、他にはないユニークなものではなく、「よくある形でいいから、できるだけ費用をかけずに」と求められることが多かったのです。実はアート思考的な発想からいえば、こうした制約がむしろ創造性を発揮するきっかけとなるのですが、当時は若かったのでそれを「自由度が乏しく面白くない」と思ってしまい、会社を辞めました。

そして、建築をアートの側面から見直そうと考え、大学に学士入学してアート研究を始めました。専攻した「美学芸術学」は、美術の歴史を学ぶのではなく、アートの意義そのものを問う学問です。それは、正解がなく、言葉で表現できないアートについて、自分なりの見解を考えて示していくことにほかなりません。アートという答えのないものに対して「自分の視点」を持ち続ける訓練でした。

このときの経験があったからこそ、前回お話しした「フレームワークやさまざまなセオリーを使っても新規事業がうまくいかないとき」に、「そもそも答えのないものに自分らしくどう向き合うのか」という思考に転換できたのだと思います。

イノベーションは酷評から始まる?

「社会にとっての実益」から一見最も遠いアート研究に取り組んだ私はその後、自由や可能性を求めて、当時キャッシュフロー(現金収支)が最も潤沢だったNTTドコモに入社しました。当時は入社時研修の課題図書になるほど、ロジカル思考がもてはやされていましたが、新規事業の立ち上げでその限界を感じました。「これからはデザイン思考だ」と飛びついたものの、それもうまくはいきませんでした。このときはまだアートとイノベーション創出のヒントが私の中でつながっていたわけではありませんでした。

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