胃の病気といえば 昔は胃がん胃潰瘍、ところで今は?
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)逆流性食道炎
(2)機能性ディスペプシア
(3)胃がん
答えは次ページ
答えと解説
正解は、(1)逆流性食道炎と(2)機能性ディスペプシアです。
胃の病気の代表といえば、かつては胃がん、胃潰瘍でした。ところが、ヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌)の除菌が進み、ピロリ菌に感染していない世代も増える中、胃がん、胃潰瘍は減少。胃の病気の主役は逆流性食道炎と機能性ディスペプシアの2つに移りつつあります(図1)。
ピロリ菌は胃の粘膜にすみ着く細菌で、胃の粘液に含まれる尿素を分解し、アンモニアを産生します。ピロリ菌が産生したアンモニアによって胃粘膜は傷つけられ、さらに、ピロリ菌が作る活性酸素や毒素からも胃はダメージを受けます。こうして胃粘膜の炎症が進むと、胃酸の刺激によって胃潰瘍が発生しやすくなります。さらに、胃粘膜が萎縮して慢性的な胃炎を起こし、そこから胃がんが発生しやすくなってしまうのです。
「ピロリ菌の除菌治療を受ければ、胃がんや胃潰瘍のリスクを遠ざけることができます。ところが、除菌によって胃粘膜の炎症が止まることで、かえって別の病気にかかるリスクも出てきます。その1つが逆流性食道炎です」。国立国際医療研究センター消化器内科診療科長の秋山純一さんはそう語ります[注1]。
胃の運動機能の衰えと相まって逆流が起きる
逆流性食道炎とは、文字通り、胃の内容物が食道方向へと逆流し、食道が炎症を起こす病気のこと。代表的な症状として、胸やけやゲップ、喉や口の中が酸っぱいと感じる呑酸(どんさん)、胃痛などがあります。
「ピロリ菌を除菌すると、胃粘膜の炎症が止まるので、それまで出にくかった胃酸が出やすくなります。それに加えて、中高年になると食道と胃をつなぐ筋肉である『下部食道括約筋』が衰えて緩むようになり、胃から食道への逆流が起きやすくなります。さらに、胃から十二指腸へ内容物を押し出す動きも衰えるので、胃の中で内容物が停滞し、食道方向に逆流しやすくなるのです」(秋山さん)
除菌前と比べて胃酸が出るようになり、さらに加齢による胃の筋肉の衰えと相まって、逆流しやすくなるというわけです。そもそもピロリ菌に感染したことがないという人も、滞りなく胃酸を分泌し続けるため、そこに加齢による胃の動きの衰えが加われば、やはり逆流のリスクは高くなってしまいます。
[注1]胃がんの減少にはこのほか、塩分摂取量の減少なども影響していると考えられている。
自律神経の乱れやストレスも影響
一方、機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia:FD)は、胃粘膜のただれや萎縮など目に見える異常はないものの、食後の胃もたれや空腹時の胃痛などの症状が表れる、慢性的な胃の病気のことを指します。機能性ディスペプシアは、みぞおちより上、上腹部の不調を訴えて医療機関を受診した人のうち、約半数もの人が該当するほど、ありふれた病気です。健康診断を受けた人の1割以上、つまり10人に1人以上が該当するとも言われています[注2]。
機能性ディスペプシアの原因として考えられているのは、加齢とともに胃のぜん動運動(胃の内容物を十二指腸に押し出す動き)が衰えること、胃がうまく膨らまないこと、自律神経の乱れ、ストレス、胃酸への感受性が高い――などです。
治療の中心はプロトンポンプ阻害薬
逆流性食道炎の治療に最もよく使われているのが、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)(ランソプラゾール、オメプラゾールなど)です。機能性ディスペプシアでは、空腹時の胃痛にはPPIなどの胃酸を抑える薬や、粘液を増やして胃粘膜を保護する薬、胃を中和して胃粘膜への刺激を緩やかにする制酸薬が使われます。食後の胃もたれには、胃の運動を良くする薬(消化管運動改善薬)などが使われます。
食事は、消化されやすく刺激の少ない、胃に負担をかけないものを選ぶのが大原則です。
「逆流性食道炎に限らず、胃の調子が悪いときは、高脂肪のメニューは避けてください。脂っこいものは消化が悪く、胃の中にたまりやすいからです。生野菜は体にいいと思う人も多いのですが、不溶性の食物繊維、つまり溶けにくい食物繊維を多く含むので、消化が悪く、胃に残りやすい性質があります。刺激の強い香辛料やカフェインなど、胃酸分泌を促進させるものもお勧めしません」(秋山さん)
生活リズムの改善も必須です。「胃の動きは、自律神経のバランスによって支えられています。不規則な生活で副交感神経と交感神経のバランスが崩れると、胃の不調を招きます。自律神経を整えるために、睡眠不足がないかなど、日常生活を見直すといいでしょう」(秋山さん)。可能な限りストレスを減らし、便秘を解消することも、胃をいたわることにつながります。
[注2]日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD)」より
(日経Gooday編集部)
[日経Gooday2020年2月17日付記事を再構成]
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