宮沢氷魚 目の前の作品に120%の力でぶつかっていく
184センチの長身に、憂いを帯びた眼差しは独特の色気をたたえている。ウェーヴィーな髪と瞳はどちらもブラウン。上品な雰囲気を醸し出し、男女問わず心を虜にするのが宮沢氷魚だ。菅田将暉、山崎賢人らとほぼ同世代の1994年生まれだが、ブレイクの起点となったのはつい半年前。2019年7月期のドラマ『偽装不倫』で主演の杏の相手役に抜てきされ、圧倒的な透明感と独特の存在感で大きな注目を集めた。
「芸能界に興味を持ったのは、中学の時に父(元THE BOOMの宮沢和史)のライブを見て『こんなにも人を感動させるのか』と驚き、自分も人前に立ちたいと思ったのが最初でした。父を超えられるとは思えなかったので、音楽は考えたことがなかったです(笑)。
アメリカ留学をしていたとき、本当に俳優を目指すなら年齢的にもう動かないとと、男性タレントが少ない事務所を探しました。層が厚いと発見されるまでに時間がかかってしまうかもって。
すぐ仕事が決まるものかと思ったら、オーディションを月何本も受けては落ち続け…。『これがダメなら、もう無理かも』と臨んだのが『MEN'S NON-NO』のオーディションでした。ちょうど坂口健太郎くんが俳優としてブレイクしていたので、『これは良いところに入れた』と思いました」
自己分析をしっかりしたうえで戦略的な行動を取る姿からは、聡明な印象を受ける。モデルとして注目を浴び始めた宮沢は、17年に『コウノドリ』で俳優デビュー。以来わずか2年で数多くのチャンスをつかみ、『偽装不倫』につながった。
「俳優もモデルも、何かを表現する部分は変わらない。いろいろ経験するなかで自分の引き出しが増え、今に生きていると感じます。どの作品でも『どう演じよう』『自分に務まるのか』と行き詰まるときがありましたが、『過去の作品があって今の自分がいる』ことを言い聞かせて乗り越えてきました」
主演を目指していきたい
20年は、映画『his』で映画初主演を飾る。ゲイの主人公を演じた作品についての宮沢の第一声は、「やっとLGBTQをテーマにした作品に出るチャンスが来てうれしかった」というものだった。
「幼稚園から高校まで男子校にいたんですが、ゲイやバイセクシャルの友達も複数いて、僕らにとってはその環境が当たり前だったんです。でも、世間に出たら、差別の対象になっていて。彼らにとってより住みやすい世界にしたいという思いがありました。
僕が演じる井川迅は口数が少なく、自分をあまり人に見せたくない。けれども、すごく繊細で誰よりも人のことを考えている。だからこそ言葉に頼るのではなく、しぐさとか表情で演じたかった。また、僕自身、自分で自分のことはなんとかしようと思ってしまう性格でしたが、この作品を通して『もっと自分に正直になろう』と思えたことも大きな経験でした」
大塚製薬「ボディメンテ ドリンク」などのCMでも活躍。3月にはパルコ劇場オープニング作品『ピサロ』に起用され、渡辺謙と共演するチャンスをつかんだ。20年の目標を問うと、自然に「主演」という言葉が出てきた。
「20年は自分の力が試される勝負の年。目の前の作品に、120%の力でぶつかっていくつもりです。『宮沢氷魚っぽい役者って、ほかにいないよね』と思ってもらえるような存在が理想像。
あと、やっぱり主役をやり続けたいですね。主演って、限られた人しかできないものだと思うんです。役者をやる以上は、そこを目指していきたいです」
ゲイだと知られることを恐れ、田舎暮らしをする井川迅(宮沢)。ある日、元恋人の渚(藤原季節)とその6歳の娘が転がり込み…。監督は『愛がなんだ』の気鋭・今泉力哉。共演は松本若菜、松本穂香ら(公開中/ファントム・フィルム配給) (C)2020 映画「his」製作委員会
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2020年2月号の記事を再構成]
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