腕貸しのプロエンジニアが増加 正社員派遣が選択肢に
製造業で設計や開発に携わる電気・機械系エンジニアが足りないとの声を聞きます。新卒採用に苦労し、即戦力を求めて中途採用に踏み切る企業も増えてきました。
パーソルキャリアの転職サービス、dоda(デューダ)は、求人数を転職希望者で割った値である「転職求人倍率」を集計しています。昨年12月は全体では3.14倍で前月に比べ0.33ポイント上昇しました。電気・機械系エンジニアに絞ると5.27倍で同0.59ポイントの上昇でした。同社を利用する人や企業に限定したデータですが、電気・機械系エンジニアの転職市場は「売り手市場」になっています。
理工系人材の不足が指摘される日本では、モノづくり系エンジニア不足は構造問題ともいえます。大浦征也執行役員dоda編集長は「構造的な人手不足に加え、あらゆるモノがネットにつながるIoTといった先端技術に対応できる人材へのニーズが高まっている。電気・機械系エンジニアの転職求人倍率は今後2、3年は現在の水準が続く」と予測します。
誰でも引く手あまたというわけではなさそうですが、人材の流動化は進んでいます。自動車メーカー出身の青木高夫・専修大学客員教授は「モーターや燃料電池、ナビゲーションシステムといった技術を持つエンジニアが足りない自動車メーカーは、中途採用で補充している」と解説します。大手メーカーでも定年まで勤務する人ばかりではなく、「40代を中心に、労働条件を比べて転職する人も増えている」と変化を感じています。
エンジニアを製造業に派遣し、人手不足の解消に貢献する企業もあります。メイテックは電気・機械系を中心にプロのエンジニアを正社員として採用、製造業に派遣しています。一企業への派遣期間は平均3年です。
引き合いが多いのは自動車と産業用機器、電気・電子機器メーカーで、最も比重が高いのは自動車です。最近は自動運転に取り組む企業が多く、周辺環境や位置を把握するカメラやレーダー、車の前進や停止を制御するソフト、障害物を検知するアルゴリズムに詳しいエンジニアを求めています。
メイテックでは基礎技術から複合技術や応用技術へと研修を重ね、派遣先の要望に応えられるエンジニアの育成を目指しています。米田洋取締役は「世の中の変化を見据えて自分のコア技術を高め、業務上のコミュニケーション能力を備えるエンジニアは長く活躍している」と説明します。日本では一企業に長く勤める慣行が続いてきましたが、保守的とみられがちな製造業でも地殻変動が起きているようです。
米田洋・メイテック取締役「企業、常にエンジニア不足の状況」
製造業で活躍する電気・機械系エンジニアには今、何が求められているのでしょうか。メイテックの米田洋取締役にエンジニアを取り巻く環境の変化について聞きました。
――電気・機械系エンジニアの労働市場の現状をどうみていますか。
「日本ではモノづくりが戦後の経済成長を支えてきました。エンジニアが充足していた時期はないのではないでしょうか。常にいい人がほしいという状況です。2015年の国勢調査によると、建築業を除くモノづくり系のエンジニアは約100万人です。ここ数年は理工系離れという言葉も聞かれ、多くの企業が新卒採用に苦労しています」
――電気・機械系を中心にエンジニアを製造業に派遣しているメイテックに対する引き合いは。
「当社はプロのエンジニアを正社員として無期雇用し、製造業に派遣しています。エンジニアの数はグループで1万人を超え、常時1200社、延べ4千社との取引の実績があります。堅調な受注環境の下で、企業に派遣している社員の割合(稼働率)は平均して95%を上回っています」
――08年のリーマン・ショックの後、産業界では人員削減の動きが広がりました。
「製造業でもリストラが活発になり、工場で働く派遣社員の契約をストップする企業が増えました。当社でも稼働率が一時、70%を下回りましたが、1年程度で回復しました。不況になってモノが売れなくなった企業は、やむなく生産調整をしますが、設計や開発といった川上の工程を担うエンジニアを大きく減らすわけにはいかないのです」
――IT(情報技術)の普及、IoTの進展といったテクノロジーの変化で、電気・機械系エンジニアに求められる仕事の内容は変化しますか。
「電気・機械系エンジニアに対する引き合いは依然強く、組み込みソフトやIT系に対する需要も高まっています。人工知能(AI)やIoTといった言葉が広く知られるようになりましたが、エンジニアたちはかなり前から、それに相当する変化に対応してきています。例えば自動車には、自動運転が話題になる前から、ソフト制御とハードを融合した技術が導入されています」
「個々のエンジニアは自分のコアとなるハードの技術を持っていますが、ソフトの技術も理解し、どのように融合していくのかを考え、新しい技術や変化に対応していく必要があります。エンジニアが自身で勉強するだけではなく、当社は教育・研修システムを整え、サポートしています。実際の仕事の中で自らの知識や知見を生かしながら、能力を高めていくことも大切です」
――新技術への対応力に年齢差はありますか。
「年齢を重ねてくると新しいモノに対する感覚が鈍ってくるかもしれません。ただ、当社のエンジニアはもともと、派遣先企業の要望や要求に対応してきたので、変化への対応に慣れている人が多いのです。60歳、さらには65歳を超えても第一線のプレーヤーとして活躍している人もたくさんいます。派遣先企業の期待に応えるというより、派遣先の期待を上回る仕事から得られる喜びを求めています」
(編集委員 前田裕之)
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