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『シャボン玉~』公演は1月からなのですが、畠中さんや吉野さんは12月いっぱい別の作品に出ていました。なので12月は公演をしながら、来られるときにけいこ場に来て、来られないときには照井さんやほかの人が代役をやるというハードスケジュールでした。久保役の照井さんは、『シャボン玉~』をやりたくて音楽座に入ったのですが、当時は出たことがなかったそうです。元同じ劇団の先輩後輩ということもあって、代役も「喜んでやります」という感じで何役もこなしていました。すてきな人間関係だなと感じました。

『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』のキャスト。左から、福井晶一、濱田めぐみ、咲妃みゆ、井上芳雄、土居裕子、畠中洋、吉野圭吾(写真提供:東宝演劇部)

そんなふうに、音楽座で出演経験のある方や、『シャボン玉~』が好きでたまらない人たちが集まったので、みんな思い入れが強くて、けいこの本読みのときから泣いていました。この作品を誇りに思っているのと、またやれることを心から喜んでいるのが、ひしひしと伝わってきました。もちろん、『シャボン玉~』を知らなかった若い人たちもたくさん出ていて、新しくこの作品に出会って、驚いたり感動したりしていると思います。

それで感じたのが、これが劇団の作品の強みだということ。『シャボン玉~』の魅力は、同じ志を持つメンバーが、30年の間少しずつ改良しながら磨き上げてきた成果なのだと感じました。僕は劇団に入ったことがなく、プロデュース公演しか出たことがないので、そのつどいろいろな方が集まって新作を作るやり方しか知らないのですが、積み重ねることで生まれる作品の力に初めて触れたように思います。

話を聞くと、音楽座では俳優もスタッフと一緒になって小道具やセットを作ったりして、全員が創作の過程に参加していたそうです。土居さんや畠中さんも大道具の宇宙船を作ったという話をされていました。今回の公演でも、佳代の義理の父親役の井上一馬さんが舞台上でパネルを動かしていたり、土居さんが影コーラスを歌っていたり、濱田さんと福井さんがラインダンスをしたり、役の大小に関係なく、いろんな形で参加しています。それは、普通はあり得ない、すごく価値があることだと思います。

濱田さんとは、こんな話もしました。「今回は、仕事とか、自分のポジションとかと全然違うところでやらせてもらっているね。年をとったとき、あのとき『シャボン玉~』に出られてよかったと、きっと思い返すね」。そんな作品に出会えたことは、俳優の仕事をやっているうえで一番の幸せで喜びです。

上演し続けていくことが大事

今回の公演で一番緊張したのは、ゲネプロ(最終の通しけいこ)に音楽座の方が50人くらい見に来てくださったときでしょうか。どう受け取られるのかドキドキしていたのですが、皆さんすごく笑ったり、泣いたりしてくださっていました。温かく受け入れてもらえたように感じて、ほっとしました。

そして『シャボン玉~』のような名作は、上演し続けていくことが大事だと思いました。公演を発表したときの反響は、たしかにすごかったのですが、その一方で新しいミュージカルファンには、この作品や音楽座を知らない人もたくさんいました。その温度差も感じたので、それを埋めていくことがミュージカル界にとって大事なことじゃないかと。

みんなが名作と認める作品は、時代を超えて感動を呼ぶし、演出が違ったとしても作品の本質は変わりません。オペラもそうだし、例えば『ウエスト・サイド・ストーリー』だって上演ごとに違う演出でやっています。日本のオリジナルミュージカルも、そんなふうになっていったらいい。今回の『シャボン玉~』がいいきっかけとなって、もっといろんな形で過去の名作が上演されるようになれば、また新しい価値が生まれて、ミュージカル界の裾野も広がっていくと思います。

井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第62回は2020年2月15日(土)の予定です。