超巨大ブラックホールを詳しく観測 X線の道草を利用

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/2/10
ナショナルジオグラフィック日本版

超大質量ブラックホールの周囲で渦を巻く分厚い降着円盤は、噴き出すX線の「エコー」を生み出す。この道草による時間差を利用して、望遠鏡で直接観察するよりもブラックホールの構造を詳しくマッピングできた(ILLUSTRATION BY NASA/SWIFT/AURORE SIMONNET, SONOMA STATE UNIV.)

2019年、ブラックホールを人類史上初めて直接撮影した画像が公開された。そのおかげでわれわれは、あの怪物の口のような穴の周辺には何があるのかを、目で見て確認できるようになった。そして今回、天文学者らは、X線の「エコー」を利用した技術を用いて、ブラックホールをさらに詳しく観測することに成功。その成果が20年1月20日付けの学術誌「Nature Astronomy」に発表された。

観測対象となったブラックホールは、地球から約10億光年離れた「IRAS 13224-3809」と呼ばれる銀河の中心にある。この超大質量ブラックホールは、数百万℃のガスなどが回転する円盤に囲まれ、また中心からは10億℃を超えるX線コロナが噴き出している。このX線がどのように振る舞うかを描くことによって、科学者らは、ブラックホールの「事象の地平線(光さえ逃れることができない領域との境界)」周辺の、極めて詳細な地図を作成した。

「ブラックホールは光をまったく放出していないため、これを研究するには、物質がその中に落ちていくときに、どんな振る舞いをするかを観察するしかないのです」。論文の筆頭著者である英ケンブリッジ大学のウィリアム・アルストン氏はそう述べている。

今回の観測結果は非常に正確だ。その精度は、昨年ブラックホールの写真を撮影した「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT:事象の地平線望遠鏡)」も到底かなわない。おかげで科学者らは、IRAS 13224-3809の中心にあるブラックホールの質量とスピンについて詳しく知ることができた。

質量とスピンは、ブラックホールの進化を解き明かす重要な手がかりとなる。もし、付近にあまた存在する超大質量ブラックホールの一群を同じように観測できれば、銀河の成長についてより多くのことがわかるかもしれない。

円盤にぶつかったX線が遅れて届く

味気ない名称で呼ばれてはいても、IRAS 13224-3809は中心領域がX線やガンマ線を非常に多く放出する「活動銀河」のひとつで、X線で見る空の中ではとりわけ興味深い銀河のひとつだ。そしてX線の明るさが、ときとしてわずか数時間の間に50倍にもなる。アルストン氏らがこの銀河を研究対象に選んだのは、活発にエネルギーが変動するため、中心にある超大質量ブラックホールの特徴を突き止めやすいからだ。

研究チームは、欧州宇宙機関のX線観測衛星「XMM-Newton」を用いてIRAS 13224-3809の観測を行った。地球を周回しながらX線で宇宙を観測している「XMM-Newton」 は、2011年から2016年にかけて、軌道を16回めぐる間に、合計550時間以上にわたってIRAS 13224-3809を観察した。

長時間におよぶこの観測データを基に、アルストン氏らは、超大質量ブラックホールのX線コロナと円盤をマッピングした。放出されるX線の一部は、直接宇宙に向かうが、その他のX線は円盤にぶつかって、ブラックホール周辺の環境を抜け出すまでにやや遠回りする。

「この道草が、コロナで生成されたX線同士の間に、時間の遅延を生じさせます」と、アルストン氏は言う。「そのエコー、つまりは時間の差をわたしたちは測定できるのです」

「反響マッピング」と呼ばれるこの技術が、ブラックホール周辺のガス状物質を詳細に調べることを可能にした。アルストン氏は反響マッピングについて、コウモリなどの動物が、音を物体に反射させて飛行中の動きの手がかりとするエコロケーションと似た技術だと説明する。また、地球から近いブラックホールを撮影するためにEHTが用いた技術とは異なり、反響マッピングは極めて遠い天体にも利用でき、事象の地平線により近い領域も調べられる。

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