2020/1/30

ハーバードが学ぶ日本企業

佐藤 著書では、「組織がイノベーションを推進し続けるためには幹部チームの構成員を大きく入れ替えなければならない可能性もある」と指摘しています。一方で幹部チームの構成員が「自己刷新」すれば、入れ替えなくてもいい場合もあると示唆しています。組織の中で昇進していっても、過去の成功にとらわれず、保身に走らず、自己刷新できて、「探索」と「深化」を両立できる。このような経営幹部やリーダーを育成するにはどうしたらいいですか。

タッシュマン 1つの効果的方法は社外で体系的にリーダーシップを学ぶことでしょう。ハーバードビジネススクールやスタンフォード大学経営大学院のエグゼクティブ講座を受講するのもよいかもしれません。さらにこうした大学から教員を招いて社内でワークショップを開催するのも1つの手です。私も時折、企業に出向いて、講演やセミナーに参加することがあります。

佐藤 日本で「両利きの経営」は、一般社員から経営者まで広く読まれていますが、一部の読者からは、「この本が伝えているのは、結局のところ、企業が存続し、成長できるかどうかは、経営幹部が『両利きの経営』をできるかどうかにかかっているということ。超保守的な経営幹部しかいない会社で、中間管理職はどのように変革を起こせばいいのか、この本を読んでもわからなかった」という声も聞かれます。このような読者にはどのようにアドバイスしますか。

中間管理職レベルでも「探索と深化」できるトヨタ

タッシュマン それはとても難しい問題ですね。中間管理職がどれだけがんばって新領域の探索をしようとしても、その上の部長や役員が保身しか考えていなければ、効果は限定的です。こうした企業は、遅かれ早かれコダックやポラロイドのような末路をたどることでしょう。

ただし日本企業の中には、組織の深部にまで「探索と深化」を推進する企業文化が浸透していて、一般社員や中間管理職であってもボトムアップで変革を起こせる企業もあります。たとえばトヨタ自動車は、巨大な企業であっても「探索と深化」を両立できることを示す格好の事例です。私の同僚は「トヨタにはタッシュマン先生が提唱するような『両利きの構造』なんて必要ないですよ。社員全員が常に『探索と深化』を実践しているのですから」と言っていましたが、トヨタには、成熟事業の深化だけではなく、新領域の探索を促すための独自の方法があると感じます。

それはIBMのようなグローバル企業とは違った方法です。IBMは「探索と深化」にもとづく「両利きの経営」を実践してV字回復に成功した企業ですが、それが行われていたのは上層レベルに限られていました。つまり日本企業の中にはトヨタのように中間管理職レベルでも「探索と深化」を両方行えて、そこから変革を起こせる企業があるということです。

佐藤 最後に日本の読者にメッセージをお願いします。

タッシュマン 多くの日本の読者に「両利きの経営」を読んでいただき、とてもうれしく思っています。本書は、経営幹部の皆さんにとっては、両利きの経営を実践していく上で必要な深い洞察が得られる本であり、一般職・中間管理職の皆さんにとっては、上司が「両利きの経営」を行えるように導いていくための典拠となる本です。

本書が日本のすべてのビジネスリーダーに、リーダーシップ、イノベーション、変革についての深い知識を提供し、自己刷新、リーダーシップスタイルの刷新、組織の変革に役立つ方法を提供していくことを願っています。

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マイケル・L・タッシュマン Michael L. Tushman
 ハーバードビジネススクール名誉教授。専門は経営管理(組織行動)。同校エグゼクティブプログラムAMP(アドバンスド・マネジメント・プログラム)ファカルティ・チェアー。「イノベーションと組織効率性」「戦略的イノベーションと組織変革」などをテーマとしたリーダーシップの授業を多数教える。技術変革、リーダーシップ、組織適応の研究で世界的に知られ、現在、世界各国でコンサルティング、講演、マネジメント研修を行う。主な共著書に「両利きの経営―『二兎を追う』戦略が未来を切り拓く」(東洋経済新報社)、「戦略優位のイノベーション―組織変革と再生への実践ガイド」(ダイヤモンド社)。

両利きの経営

著者 : チャールズ・A. オライリー, マイケル・L. タッシュマン
出版 : 東洋経済新報社
価格 : 2,592円 (税込み)

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