グレタさん育んだスウェーデン 保育園から民主主義

日経DUAL

「自分たちが社会を変えていけると思う?」「もちろん!」

勧誘活動中の二人に、「自分たちが社会を変えていけると思う?」と尋ねると、「もちろん! というか、絶対に変えたい!」という元気な答えが返ってきた。そもそも彼らは、どういうきっかけで「自分も社会を変えられる」と思うようになったのだろうか。

「小学校のときから学校には生徒会があったし、何かを変えたいと思えば、そこで意見を言えばいいと分かっていた」と話してくれたのは、市内の私立高校の2年生、リーア・ギルベットソンさん(17歳)。

スウェーデンの場合、市民運動が盛んだったという歴史背景も大きいとリーアさんは言う。19世紀半ばに始まった労働運動では、労働者がストライキを行い、労働組合が結成され、力を強めていった。現在のスウェーデンの労働環境が良いのは、今でもこの労働組合の力が非常に強いからだ。1960年代に勢いを増した女性解放運動も、男女平等先進国スウェーデンを形成した大きな要素だ。今の高校生は、国民が自国をつくってきた過程をはっきり意識しているようだ。

若者が社会を変えた例はいくつもある

同じ私立高校の2年生マキシミリアン・ネースホルムさん(17歳)は、最近若者が社会を変えた例を幾つも教えてくれた。2019年の9月7日には、ヨーテボリの化石燃料の輸入ターミナルで450人規模のデモ隊が12時間にわたって輸送トラックの出入り口を封鎖し、ターミナル拡張工事の取りやめを要請したという。「これをやっていなかったら、あと40年長く化石燃料が使われるところだったんだよ!」と熱い口調で語っていた。

2018年の夏休みには、中学生や高校生が全国の市バスを無料で利用できることになった。貧富の差にかかわらず夏休みを楽しめるようにと、左翼党が中心になって国家予算に組み入れた政策だった。それを後押ししたのも、左翼党青年部の若者たちの熱い思いだったという。そうやって、若者が社会を変えていく様子を語る二人の瞳は、誇らしさに輝いていた。

同世代の環境活動家であるグレタさんについては、どのように感じているのだろうか。「スウェーデンではこれまでも環境問題には熱心に取り組んできたけど、あくまで個人レベルにとどまっていたと思う。ベジタリアンになるとか、ちゃんとゴミの分別をするとかね。グレタのおかげで、本当の意味で責任を負っているはずの国や企業の目を覚まさせることができたのは素晴らしいことだと思う」とリーアさんは言う。

「自分たちも社会を変えたいと思って活動しているけど、他の子が具体的な行動を起こしてくれたことが本当にうれしい。彼女の行動が大きな波となり、スウェーデン中、そして世界中に広がったなんて……」。こうやってまた改めて、「自分たちにも社会を変えられる」というのを、若者たちは実感したようだ。

「フラットな関係」「アンケート」 学校には民主主義が徹底している

彼らがそう実感し、実際に行動を起こすに至るのには、スウェーデンという国が教育を通じて、子どもたちに民主主義の基本概念を徹底的にたたき込んでいるという現実がある。

学校では、教師と生徒はお互いをファーストネームで呼び合い、フラットな関係を築いている。もちろん先輩や後輩という概念もない。学校を変えたいと思っている生徒は、リーアさんの話にあったように生徒会に入って、意見を言うことができるし、各学校には給食委員会というものもあり、生徒が教師や給食担当スタッフとチームになって、全校生徒の意見を取り入れ、改善していくというシステムがある。ヨーテボリにある私立高校では最近、この給食委員会の画期的な提案で、給食がすべてベジタリアン食になった。

私が勤めている高校では、毎年生徒が各教師に対するアンケートを記入することになっている。私自身ももちろんアンケートの対象になり、その結果が成績表のように配られる。自分で言うのもなんだが、私の授業はなかなか人気があって、「教師がもっと学びたくさせてくれる」「教師が明確にどういう点を改善すればいいか教えてくれる」などの項目はどれも高得点だ。しかし、毎回1つだけ評価の低い項目がある。それは「自分が授業に影響を与えられていると思うか」という設問だ。

生徒が授業に影響を与える――日本で生まれ育った私には、授業に生徒の意見を取り入れるという意識は全くなかった。生徒に何をしたいか尋ねれば、毎回「日本のテレビドラマを見たい」と言われるだろう。そんなの論外。教師が全部決めたほうが効率がいいし、生徒のためにもなるに決まっている。私はそう思い込んでいた。しかしスウェーデンで教師をするなら、考え方を変えなくてはいけない。すでにお分かりの通り、学校は生徒に民主主義の意味を教える大切な場なのだ。私も次第に、生徒自身にテストを受ける日を選ばせたり、課題を出すにしても設問をいくつか準備して、その中から自分で選んでもらったりするようになった。

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保育園のプロジェクトも子どもたちの意見で決める