箱根駅伝・青学の体幹トレ 体内部の筋肉にスイッチ
2020年1月の箱根駅伝では、青山学院大学が圧倒的な強さを見せ、総合優勝を果たした。そこで改めて注目されているのが、2014年から青学駅伝チームのフィジカル強化指導を担当している中野ジェームズ修一さんが、青学選手のメニューとして重視している「体幹トレーニング」だ。
5回目の優勝を支えた「体幹トレーニング」
2015年から箱根駅伝4連覇を遂げていた青山学院大学は、2019年こそ東海大学に敗れはしたものの、2020年は見事その雪辱を晴らし、大会新記録のタイムで2年ぶり5回目の総合優勝を果たした。
1月2日の往路を3年ぶりに制した青学は、翌日は2位の国学院大学から1分33秒差で復路をスタートし、一度もトップを譲ることなくゴールテープを切った。
この青学駅伝チームのフィジカル強化指導を担当しているのが、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんだ。中野さんが選手のトレーニングとして特に重視しているのが、近年、よく話題になっている「体幹トレーニング」だ。中野さんには『世界一効く体幹トレーニング』という著書もある。
「体幹の内部の『インナーユニット』の筋肉をうまく使って走れるようになると、体の上下左右の揺れがなくなり、エネルギーのロスが少なくなるんです。いつも終盤になってバテていた長距離ランナーが、体幹トレーニングを取り入れることによって、ペースを落とさずに走り切れるようになった例が多くあります」(中野さん)
ところで、この「体幹」が、体のどの部位を指すのか、正確に理解している人はどれだけいるだろうか。解剖学的には、全身から頭部と四肢を除いた部分、つまり内臓が詰まった胴体ということになる。しかし、スポーツや日常の運動機能面の重要性から見ると、およそ肋骨下から股関節までを指していると言っていい。
「体幹というと、おなかの部分だけが注目される傾向があります。ですが、体幹トレーニングは、おなかを凹ますメソッドではありません。インナーユニットをうまく、巧みに使えるようにすることが本来の目的です」(中野さん)
インナーユニットとは、胴体の深部にある筋肉群のことで、横隔膜、腹横筋、多裂筋、そして骨盤底筋群で構成されている。それに対し、胴体の表層に近い部分にある筋肉群のことを、アウターユニットと呼び、腹直筋、腹斜筋群、広背筋によって構成されている。
「走るときに意識するべきなのは、おなかの正面にある腹直筋などのアウターユニットではありません。深部にあるインナーユニットなのです。大まかに言うと、直立した姿勢を保つ役割を果たしている筋肉です。インナーユニットをうまく使えるようになると、走るときに体がブレなくなります」(中野さん)
体幹を鍛えるためには、まず重要度が高い体の奥深くにある筋肉から始め、順に付帯する外側の部位を強化していく。「順番を間違えて、先に外側の筋肉を鍛えてしまうと、内部の筋肉を使うためのエクササイズでも、外側の筋肉を使ってしまうので、目的とする競技能力の向上にはつながらないことが多いんです」(中野さん)
ただし、インナーユニットを「鍛える」といっても、筋トレのように筋肉を大きくすることが目的ではない。うまく使えていなかった筋肉にスイッチを入れることが目的だ。つまり、インナーユニットの使い方を覚える「スキルのトレーニング」なのだ。
それではここで、青学の選手もやっているインナーユニットのエクササイズを3つ紹介しよう。どれも基本的なものなので、一般のランナーにもお勧めだ。ランニングフォームの改善に役立ててもらいたい。
インナーユニットを目覚めさせる基本エクササイズ
まず、インナーユニットの使い方を覚えるために最初に取り入れてほしいのが、「ドローイン」だ。なかでも、基本中の基本の方法を教えよう。
【膝を立ててドローイン (10回以上繰り返す)】
仰向けになり、膝を立て、背中をべったりつけた状態から、5秒かけて、お腹が膨らむくらい大きく息を吸いながら腰を反らせる
5秒かけて口から息を吐くことで、腰が床方向に下がっていく。このとき、腹直筋(お腹の正面の筋肉)を固くしない。また、腰を床にべったりつけずに少し空けておく
(中野ジェームズ修一著『世界一効く体幹トレーニング』(サンマーク出版)より)
アウターユニットも使いこなそう
ドローインでインナーユニットを使う感覚がつかめるようになってきたら、体幹への負荷を高めた「バキューム」「サイドプランク」を行う。やはり、インナーユニットを作動させたまま、腹直筋や腹横筋といったアウターユニットを使いこなせるようになろう。
【バキューム (20回を2~3セット)】
両肘、両膝を床につき、膝を曲げる。肘は肩の真下に。息を吸いながら腰を大きく反らせたら、息を吐きながら肛門(膣)を軽く締める
息を吐きながら4秒かけて腹部を上に押し上げるイメージで背中を丸めていく。視線はへそに向ける。息を吸い、吐きながら4秒かけて1に戻る
(中野ジェームズ修一著『世界一効く体幹トレーニング』(サンマーク出版)より)
【サイドプランク (左右各20回を2~3セット)】
(中野ジェームズ修一著『世界一効く体幹トレーニング』(サンマーク出版)より)
下半身のトレーニングも一緒に
体の動きの安定性を増すためには、体幹トレーニングに加え、下半身のトレーニングも必要になってくると中野さんは言う。
「人間の体を"構造物"として見た場合、安定性を増すためには、下半身や股関節が重要になります。人間という構造物の基礎になるのは、下半身だからです。そのうえで、耐震強度が足りない建物に補強を入れるように、上半身の筋肉を鍛えるのが、本来の体幹トレーニングになります」(中野さん)
体幹トレーニングと下半身のトレーニングをうまく組み合わせて、効率が良く、安定性の高い体の動かし方を覚えれば、一般ランナーでも成績アップが期待できるはずだ。
(ライター 松尾直俊)
スポーツモチベーションCLUB100技術責任者、PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー。元卓球選手の福原愛さんなど多くのアスリートから支持を得る。日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとして活躍。最新刊は『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP社)。
[日経Gooday2020年1月16日付記事を再構成]
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