「ずとまよ」は今の時代の音を鳴らす(川谷絵音)ヒットの理由がありあまる(18)

日経エンタテインメント!

日経エンタテインメント!

以前から気になっていた、“ずっと真夜中でいいのに。”が1stフルアルバム『潜潜話(ひそひそばなし)』を発売。そこで今回は、ずっと真夜中でいいのに。、通称“ずとまよ”を、音楽性とアウトプットの両面から解説しようと思います。

ずとまよは、シンガーソングライターACAねちゃんのユニット名。顔出しもしていないし、詳細は不明というニコニコ動画の歌い手のような売り出し方をしているが、まず言いたいのは、彼女の才能はその辺のミュージシャンとは格が違うということ。歌がうまい上に、その歌声は突き抜ける強さと繊細さを兼ね備える最強のボーカリストだ。また作曲の幅も広く、歌詞のクオリティーも高くて時代感をしっかり読み解く力もある。すべてがズバ抜けており死角がないのだ。そしてその死角をさらになくしているのは曲によって変わるアレンジャーたち。当たり前だがアレンジャーの色によって曲調が変わるため、今回の『潜潜話』を通して聴いても飽きがこない。

ACAねちゃんは、ジェニーハイをカバーしてくれていたり、僕のバンドが新曲を出すと必ずメールをくれる。自分で言うのもおこがましいが、僕は「シーンは僕以前、僕以降で少し変わったかもしれない」と思っている。YUKIさんやAimerでもおなじみの音楽プロデューサー玉井健二さんもインタビューで「1曲の中で違う曲をパッチワーク的に貼り付けつつ、1曲として成り立たせているような川谷絵音の曲調で、音楽シーンに変化が訪れた」と言っていた。それだけではないのだが、完全にずとまよは、僕以降の音なのだ。

僕以降の音のバンドやアイドルの曲調は、自分ではすぐ分かるのだが、その中でもずとまよは別格で、僕以降であり米津(玄師)以降なのである。「何をお前は言ってんだ?」と思われるかもしれないが、これは持論だ。彼女は米津以降のボカロ文化をしっかり昇華し、僕がやってきた音数の多いプログレJ-POPも昇華して、自分オリジナルにしている。僕が作ってきたものは現時点で評価が難しい曲もたくさんある。おごりかもしれないが、5年10年経って評価されると思っている作品も多い(実際に『夏夜のマジック』という僕が作った曲は4年経った今、ヒットし始めている)。

しかし、ずとまよはしっかり今を作っている。僕がジェニーハイでやろうとしている世界は彼女と近い。僕以降を今に昇華させたポップス。音楽以外のビジュアルは全然違うが、根本はすごく似ている。お互いにメロディーのツボが近いからだ。こんなに“分かる”と思う楽曲を作る人が出てきたことがうれしいし、ずとまよが売れているのは必然で健康的だ。かつ楽曲や歌以外の売り出し方、つまりアウトプットもうまい。

「MVが先」業界と逆行した手法

今はミュージックビデオを公開すると、ストリーミングも同時に解禁するのが常だ(音楽業界の作り的に致し方ない)。あとは逆にストリーミングを先に解禁し、ミュージックビデオを後に公開するパターン。しかし、ずとまよはミュージックビデオを先に解禁し、ストリーミングを後で解禁するスタイルを取っている。このやり方はほとんどのアーティストはできない(理由はなかなか難しいので説明は省きます)。業界と逆行したやり方をしながらも、ミュージックビデオを先に公開することで、アニメ映像込みで楽曲を浸透させるのだ。

これは完全にボカロなどのニコニコ動画文化を引き継いでいる。そして再生回数が大台を超えた辺りでストリーミングを解禁する。そうすることで、映像ありでしか聴けなかった曲を耳だけで聴くため、ミュージックビデオでは気付かなかった音が真っすぐに入ってくる。今までにない新感覚で、ずとまよを聴けるわけだ。しっかりと耳で音が追える瞬間。音が自分のものになる感覚。それは逆ではなし得ない。

ずとまよは、音楽とアウトプットの仕方両方で死角なしのアーティストだ。タイアップ次第で2020年はもっとビッグになるのではないかと思う。楽しみだ。

川谷絵音
1988年12月3日生まれ、長崎県出身。ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoroといったバンドのボーカルやギターとして幅広く活躍。ゲスの極み乙女。の新曲『秘めない私』を現在配信中。ジェニーハイは、11月27日に1stフルアルバム『ジェニーハイストーリー』をリリースした。

[日経エンタテインメント! 2020年1月号の記事を再構成]

エンタメ!連載記事一覧