豪の森林火災で恐怖の突風 炎の竜巻を招く火災積乱雲
森林火災による煙が渦を巻きながら上昇し、小さな白い雲ができる。それがわずか30分のうちに、すさまじい雷雲へと変わる。火災積乱雲だ。火災積乱雲や嵐のような火災旋風は、火災をさらにひどくするきわめて危険な大気現象だ。猛烈な風を起こし、まだ火の手が達していない離れた場所へまで火の粉を吹き飛ばし、雷を落とす。
2018年に米カリフォルニア州で起こった「カー火災」では、4.8キロにわたる火災積乱雲がわずか15分で11キロにまで膨れ上がり、炎の竜巻も起こった。火災旋風は、ポルトガルや米テキサス州、アリゾナ州で起きた深刻な森林火災で観測されている。
地球温暖化により、大規模な森林火災は以前よりも増加し、火災シーズンも長期化している。2019年、オーストラリアでは春の降水量が過去最低を記録し、最も暑い1年となった。そして、森林火災がこれまで以上に猛威を振るっている。このままいくと、火災旋風の発生件数も増加し、ただでさえ乾燥しきっている土地にさらに追い打ちをかけるだろうと、専門家は懸念している。
「全てが最悪の状態にあるということ」
いつどのようにして火災旋風や火災積乱雲が発生するのかを正確に予測することは難しいと、カナダ、アルバータ大学教授で森林火災が専門のマイク・フラニガン氏は言う。
「火災旋風は非常に激しく、予測不可能です」
「火災の最中で、これらの現象を作り出すもの全てが最悪の状態にあるということです」と語るのは、米海軍研究所の火災積乱雲専門家マイク・フロム氏だ。
火災現場の上空が超高温になると、上昇気流が発生する。それとともに、煙が煙突をのぼるように吸い上げられる。上昇した空気は冷えて凝縮し、雲を形成する。雲は上へ行けば行くほど、雷を伴った嵐が起こりやすくなると、フラニガン氏は言う。
「猛烈な上昇気流は、独特な風を作り出します。そこは、非常に変化の激しい環境です」
火災積乱雲は、通常の積乱雲と見た目がよく似ているが、いくつか重要な違いがある。
まず、負電荷よりも正電荷を帯びた雷が発生することが多い。正電荷の落雷は寿命が長く、地上で火災を起こしやすい。また、火災旋風は動きが鈍く、それを発生させた火災現場の上空に長く留まる傾向がある。そして、何よりも気になるのが雨だ。火災積乱雲は、大規模森林火災の消火に必要な雨を降らせてはくれない。
「皮肉なことに、雨はまず降りません。火災積乱雲は火から生まれるので、煙に含まれる微粒子が雲の中の物理現象に影響を及ぼして、水滴が形成できなくなってしまうのです」
あと数カ月は火災が続くと予測
オーストラリアは、気候変動の直接的な影響を受けるリスクが高い。2005年以降、観測史上最も暑い年が10回もあった。
ハリケーンに洪水、森林火災など、ひとつひとつの気象現象を気候変動と関連付けることはできない。そのため、科学者は長期的な気象パターンを調べる。フロム氏の研究では、気象パターンの変化はまだ確認できていないが、研究は続けられている。
過去1年間で、オーストラリアではその前の20年間をすべて合わせたよりも多くの火災旋風が発生している。今後も暑く乾燥した状態が続き、火災積乱雲が現れる回数も増加するだろうと、科学者は見ている。
「気候変動のせいで森林火災は激しさを増し、火災旋風も増えると思われます」と、フラニガン氏も言う。
2019年7月に発表された論文で、豪クイーンズランド大学の森林火災科学者ニコラス・マカーシー氏らの研究チームは、オーストラリアの気候が変化し、この先多くの人や動物の生息地が火災旋風の危険にさらされるだろうと予測している。
だが、火災旋風や火災積乱雲の長期的な影響はまだはっきりしていない。それらが火災を拡大させ、森林火災を悪化させることはわかっているが、火災積乱雲は局地的に太陽の光を遮り、気温を下げる効果があるかもしれないと、フロム氏は指摘する。
オーストラリアの森林火災シーズンはまだ始まったばかりだ。気象予報士は、火災があと数カ月は続くと予測している。
(文 Sarah Gibbens、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年1月9日付]
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