音楽ファンとアーティストより近く クラウド調達の力クラウドファンディングが変える社会(2) MotionGallery代表 大高健志

MotionGallery代表の大高健志氏
MotionGallery代表の大高健志氏

次代を担う「旗手」は何を感じ、何を考えているのか――。日本経済新聞社が運営する投稿プラットフォーム「COMEMO」から、「キーオピニオンリーダー」が執筆したビジネスパーソンにも役立つ記事を紹介します。小口資金を集めるクラウドファンディングサイトを運営するMotionGallery(モーションギャラリー、東京・港、サイトも同名)代表の大高健志さんによる「クラウドファンディングが変える社会」、第2回のテーマは「音楽」です。

<<(1)クラウド調達が生む世界 「カメ止め」映画の常識覆す

社会を豊かに、そしてクリエイティブにする活動を応援するクラウドファンディングサイト「モーションギャラリー」には、映画やアート作品の資金調達プロジェクトが掲載されています。上田慎一郎監督の「カメラを止めるな!」(2017年公開)をはじめ、社会にインパクトを与えたものも少なくありません。プロジェクトは映画やアートに限りません。なかでも音楽の分野では、資金集めにとどまらない取り組みが多かったように思います。

クラウドファンディングで実現した新しい流れ

ひとつは「ファンとアーティストのあり方に一石を投じた」ことです。

例えば、「侍ジャズバンド」と呼ばれ、人気を集めた「PE’Z(ペズ)」の解散公演を映像で記録するプロジェクトは、目標額300万円をはるかに超える1700万円以上を集めました。映像の頒布はプロジェクト支援者のみの限定で、「スポンサーやビジネス関係者のためにライブ映像を作るのではなく、あくまでも長く応援をしてくださったファンの皆さんのためだけに作るべきだ」とのメンバーの思いにファンが応えるかたちとなりました。

1999年、ボーカルの佐藤伸治氏が死去したことで活動を休止した人気バンド「フィッシュマンズ」の軌跡を振り返る映画制作プロジェクトでは、目標金の1000万円を大きく上回る1800万円以上を集めることができました。これまで、時代を超えてアーティストの作品を残していく役割を担っていたのは、レコード会社や音楽事務所でした。しかし、このプロジェクトでは、ファンの主導によって、それを実現することができたのです。

孤高のバンド「フィッシュマンズ」。クラウドファンディングで眠っていた作品が掘り起こされた

こうしたことは音楽にとどまりません。エンターテインメント分野では、アーティストとファンとの間に、制作会社や事務所など仲介者が多数存在しています。アーティストとファンはそれぞれ「もっと早く、効率よく作品を届けたい」「もっと近づきたい」という思いを持っていますが、クラウドファンディングはこの距離を縮め、互いに直接的に関与できる環境を用意することができるのです。

クラウドファンディング、もう一つの役割

クラウドファンディングの役割は単に資金調達にとどまりません。「自分たちの思いや活動を広く世の中に知ってもらえる」ことも大きな力です。

そんな事例として、最も印象に残っているのが風俗営業法について問題提起したドキュメンタリー映画「SAVE THE CLUB NOON」(2013年公開)の制作プロジェクトです。

1948年施行の風営法は、終戦直後にダンスホールが売買春の温床になったことから、深夜のダンス営業などを規制。2010年ころから取り締まりが強化され、関西では約2年間で20軒ほどが廃業しました。そんな中、大阪の老舗クラブ「NOON」が摘発されると、ミュージシャンやDJなどが「NOONを救いたい」と、音楽イベント「SAVE THE NOON」を開催します。映画はこのイベントを追いかけたドキュメンタリーです。

規制改革の流れとともに、こうした規制を見直す声が高まり、風営法は2016年に改正、照明など一定条件を守れば、午前0時以降も営業できるようになりました。しかし、プロジェクトを立ち上げた当初の反応は惨憺(さんたん)たるものでした。

風営法の問題提起を行ったドキュメンタリー映画も制作。同時に風営法の見直しを求める署名活動を行った

プロジェクトの目標金額は、劇場公開費用の300万円。「風営法に問題がある」と呼びかけてもなかなか響きません。本作のプロデューサーで写真家の佐伯慎亮さん、監督の宮本杜朗さんとともに、「関係者の煮えたぎる思いがなぜ数字に結びつかないのか」と悩みに悩み抜きました。

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