「夢の実現装置」 ハーバードも驚くリクルートの強みハーバードビジネススクール教授 サンドラ・サッチャー氏(上)

佐藤 なぜ国を揺るがすようなスキャンダルを起こした企業が、売上高2兆円を超える大企業に成長したと思いますか。

サッチャー 1988年にリクルート事件が起こったとき、当時の社員の中には「このままではこの会社は半年以内につぶれるだろう」と思った人もいたそうです。贈収賄事件が起こってしまったことに対して社員は何もできない。その中でリクルートのサービスや商品をこれまでどおり顧客に提供し続けていくための方法を必死に考えたと。

再生の原動力は現場の自負

この事件はリクルートに大きな変化をもたらしました。事件を機に社員の自律性を尊重する企業文化が醸成されたのです。「リクルートのサービスをつくりあげてきたのは、現場の自分たちだ」という自負のもと、20代や30代の若手社員を中心に、「個人」としてクライアントとの信頼を再構築していけるようにつとめました。そのひとつの試みが名刺を出す際に社名よりも先に名前を言うことでした。

佐藤 リクルートはいまだにウェブサイトで「リクルート事件」について日本語、英語の両方で公開しています。なぜあえてそうしていると思いますか。

サッチャー 私も英語版のウェブサイトを見て驚きました。その理由をリクルートの方々に直接聞いてみたら、「リクルートがこの事件を起こしてしまったのは事実なのだから、避けて通るわけにはいかない」とおっしゃっていました。ウェブサイトには、リクルート事件の反省と、社員、顧客、投資家、政府などからの信頼を取り戻す過程で何を学んだか、について詳細に記しています。

これらを公開していることのメリットは2つあります。1つはリクルートが真実を包み隠さず伝える会社であることが強調され、さらにステークホルダーからの信頼を得られること。周りの人々からの信頼を回復するための最も効果的な方法は真実を述べることです。

もう1つはリクルートが過去の過ちから学び、これからも学び続ける会社であることを示せることです。リクルートの競争優位性は「学習する能力」だと思いますが、このウェブサイトを見るとそれがよくわかります。

現在のリクルートには、企業再生に成功したという自信と、何事も学び続けなくてはならないという謙虚さが共存していると思います。自信と謙虚さは、企業にとっては強力な力となります。自信は大きく考えることにつながり、謙虚さは学び続けることにつながるからです。

私は「企業はいかに信用を構築し、失墜し、回復をするか」というテーマを長らく研究してきましたが、リクルートほど信用の失墜から劇的に回復に成功した企業はなく、現在執筆中の著書でも取り上げる予定です。

(下)リクルートは世界で成功するか ハーバードの視点
■社員の起業促せる不思議 ハーバードが見たリクルート
■常識超えに潜むリクルートのリスク ハーバードの視点

サンドラ・サッチャー Sandra Sucher
ハーバードビジネススクール教授。専門はゼネラル・マネジメント。特に「企業はいかに信用を構築し、失墜し、回復するか」をテーマに研究。MBAプログラムにて「リーダーシップと企業倫理」「モラル・リーダー」、エグゼクティブプログラムにて「テクノロジーとオペレーションマネジメント」等の講座を教える。大手デパート、フィデリティ・インベストメンツなどで25年間にわたって要職を務めた後、現職。著書に“Teaching The Moral Leader A Literature-based Leadership Course: A Guide for Instructors” (Routledge), “The Moral Leader: Challenges, Tools, and Insights” (Routledge)。

The Moral Leader: Challenges, Tools and Insights

著者 : Sandra J. Sucher
出版 : Routledge
価格 : 7,084円 (税込み)

管理職・ミドル世代の転職なら――「エグゼクティブ転職」

5分でわかる「エグゼクティブ力」
いま、あなたの市場価値は?

>> 診断を受けてみる(無料)

「エグゼクティブ転職」は、日本経済新聞社グループが運営する 次世代リーダーの転職支援サイトです

NIKKEI 日経HR


今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
注目記事
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら