火星・氷衛星に生命? 宇宙生物学、太陽系探査に期待東京工業大学 地球生命研究所 藤島皓介(5)

ナショナルジオグラフィック日本版
土星の衛星「エンケラドス」をフライバイするカッシーニ探査機。(イラスト:NASA/JPL-Caltech)
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた」は、知の最先端をゆく人物を通して、世界の不思議や課題にふれる人気コラム。2020年の年明け前後の「U22」に転載するシリーズは「宇宙生物学」がテーマ。地球と地球外の生命をともに考える地平からは平和へのメッセージが聞こえてきます。

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さて、前回まで見たような実験室での取り組みが深まると、そこから発展していくものがある。研究というのはどの分野でも「深めれば広がる」ものがあると思うのだが、宇宙生物学の場合、それが激しい。

藤島さんの場合は、生命が「いかに」生まれたのかという関心を中心に据えていたわけだけれど、すると「どこで」ということも必然的に問わざるをえなくなる。たとえば、地球上の話に限るにしても、どこで生命にいたる化学進化や初期の生命の進化が起きたのだろうか、と。

東京工業大学地球生命研究所で宇宙生物学を研究している藤島皓介さん。

「陸派か海派ってよく言われるんです。生命の起源といいますか、高分子の『紐』ができあがっていったのが、陸上の温泉みたいなところなのか、海底の熱水噴出孔のあたりなのか議論があります。ただ僕の研究で軸に置いてるのは高分子の起源なので、これができやすい環境がそれぞれにあった場合に、海だろうと陸だろうと宇宙だろうと、どんどん攻めなきゃいけないっていうことで、海洋研究開発機構JAMSTECの高井研さんたちとも共同研究しています」

高井研さんは、Webナショジオの人気連載でも知られる海洋微生物学者で「深海・地殻内生物圏研究分野」の分野長を務めている。生命の起源の研究では「海派」だと考えられる。おさらいになるが、この議論で「海派」が不利なのは、生命の元になるような高分子の紐がつながっていくためには、脱水縮合という化学反応が必要で、これはつまり「水」が抜ける反応だから水がたくさんあるところでは進みにくい、ということだ。

「それが、実はそうでもないかもしれません。高井さんに教えてもらったのですが、深海底によっては二酸化炭素がシャーベット状になったいわゆるハイドレートが溜まっているところがあって、さらにその下には液体の二酸化炭素が大量にあるんです。ここでは水の存在が限定されているので、スーパードライな環境とも言えます。海の中にですよ! ここに集まる有機物は脱水縮合を受けやすいと考えられるのでポリマーの紐ができる可能性があります。そこで、それを確かめるために、まずJAMSTECの研究者や慶應の学生と一緒に専用のリアクター(耐圧反応容器)をつくって、液体の二酸化炭素の界面で有機物が脱水縮合するかどうか確かめる実験をやります。さらに航海調査に出て、海底の液体二酸化炭素を直接採ってきて、その中に本当に何が溶けているか調べる予定です。アミノ酸がつながった疎水的なペプチドがもし見つかれば言うことないですが、全く予想と違うものがでてきても大興奮です」

いよいよ宇宙の話を伺おう。

このお話をした後で、藤島さんは高井さんらと実際にこの航海調査に旅立った。天候に恵まれない中、首尾よくサンプルの採集にも成功したとのことなので、そこに何が溶けていたのか新たな報告を待ちたい。

藤島さんの旅は続く。

あらかたの予想の通り、次は宇宙だ。なにしろ、今回の話題は宇宙生物学なのである。

地球上の話題に終始してきたけれど(そしてもちろん、地球は宇宙の中の一つの惑星なのだけれど)、もっと直接的に宇宙をみなければ、アストロバイオロジーの名がすたる! かどうかはともかく、ぼくは当然のように宇宙の話題を期待してきたし、読者もそうだろう。ましてや、藤島さんは、NASAのエイムズ研究センターの研究歴があり、一般読者からしてみると宇宙専門家のように見えるキャリアの持ち主なのである。

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