「アライブ・シャツ」と「デッド・シャツ」

シャツにはこんな呼び名があります。「アライブ・シャツ(生きているシャツ)」と「デッド・シャツ(死んでいるシャツ)」です。コットンやリネンやシルクといった、それぞれの生地の表面の風合いが分かる状態が、アライブ・シャツ。高温、高圧のアイロンによって質感が殺された状態がデッド・シャツ。

アルフレッド・ヒッチコック監督の映画に「北北西に進路を取れ」(1959年)があります。主演は、ケーリー・グラント。あの映画の中でケーリー・グラントが着ているのは、「アライブ・シャツ」の典型例。かなり高番手のコットン・シャツを着ています。その品質の高さが、スクリーンを通じてさえわかるのです。シャツが生きているからこそ。そして生きているシャツは、またスーツを生かすものでもあります。

監督作ではシーンの随所に徹底したこだわりを見せた。装いもしゃれたものだった=共同

天皇陛下もなさったシャツのアイロンかけは、コツさえ覚えれば難しいものではありません。肩ヨークなど手が届きにくい所は、裏からアイロンをあてること。ここらへんは簡単です。

コツが要るのは、襟。襟は、端から中央へとアイロンを動かしてください。慣れれば、1枚のシャツは3分で仕上げられます。わずか3分で、アライブ・シャツの完成なのです。

ところで、「シャツ1割説」という言葉があります。スーツの値段の1割がシャツの値段。仮に10万円のスーツを着るとすれば、組み合わせるシャツは1万円前後でありたい、という考え方です。20万円のスーツには2万円のシャツがふさわしい。

10万円のスーツに、ぱりっとしたシャツを合わせると、20万円のスーツに見えることがあります。一方、10万円のスーツに下品なシャツを合わせると、3万円のスーツにしか見えないこともある。有能な秘書のおかげで社長が立派に見える、というお話によく似ています。スーツを立派に見せるか否かは、実はシャツにかかっているのです。

出石尚三
服飾評論家。1944年高松市生まれ。19歳の時に業界紙編集長と出会ったことをきっかけに服飾評論家の元で働き、ファッション記事を書き始める。23歳で独立。著書に「完本ブルー・ジーンズ」(新潮社)「ロレックスの秘密」(講談社)「男はなぜネクタイを結ぶのか」(新潮社)「フィリップ・マーロウのダンディズム」(集英社)などがある。

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