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「音」感じる機器 障害者もライブの盛り上がり楽しむ

奈津子の家電選び後輩目線

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NIKKEI STYLE

富士通が開発した「Ontenna(オンテナ)」は、聴覚に障害を持つ人を想定した製品だ。耳の聞こえないろう者がオンテナをつけることで、外部の音を体感できるようになるという。いったいどういう仕組みになっているのか。そしてどんな経緯で開発され、どんな世界を目指しているのか。家電アドバイザーの資格を持つ女優の奈津子さんが、学生時代から開発を続けている富士通の本多達也プロジェクトリーダーを取材した。

リアルタイムに音を光と振動に変換

オンテナは聴覚に障害を持つ人たちに向けて開発された製品です。本体内部にマイクを搭載し、マイクが捉えた60~90デシベルの音を256段階の振動と光の強さに変換します。その光と振動を感じることで、耳が不自由な人でも音のリズムやパターン、大きさを知覚できるのです。

「音を光と振動に変換する」ってどういうことなのか、実際に試してみます。

私の声とオンテナの光が同調しているのがわかりますか。光の点滅と合わせてオンテナ本体も振動しています。スマホのバイブレーションをイメージしてもらえばわかりやすいかもしれません。感知した音圧に対応して光と振動の強さは変化します。音のリズムやパターンを、聴覚とは異なる視覚や触覚で感じることができるわけです。

「大事なのはリアルタイム性です」というのはオンテナの生みの親、富士通Ontennaプロジェクトリーダーの本多達也さん。「自分や相手が声を出した瞬間にオンテナが光って振動するということは、声を理解するのに大切なんです。音への反応を示す処理速度はエンジニアたちが本当に頑張ってくれて、今ではほとんどタイムラグがありません」

リアルタイムに反応するおかげで、オンテナを使えば耳が聞こえない人も音を「感じる」ことができます。例えばオンテナをつけて太鼓をたたけば、太鼓の音の強弱やリズムがわかります。次の動画は2017年、渋谷ハチ公前広場で行われたタップダンス鑑賞体験会の様子。プロのタップダンサーHIDEBOHさんたちのパフォーマンスを楽しむ様子が見られます。

2019年に行われた卓球のTリーグの試合では、卓球台近くにマイクを設置して、試合中に聞こえる音を伝える実験を行いました。ともにオンテナをつけてゲームを観戦した聴覚に障害を持つ子どもと健聴者の両親が「スマッシュのときの振動、すごかったね」と楽しんでいたそうです。

悩んだのは「どこにつけるか」

オンテナのホームページを見ると、オンテナを髪につけた少女と襟につけた少年の写真が出てきます。「女性が髪につけると(アニメ『エヴァンゲリオン』の)綾波レイみたいとよく言われます」と笑う本多さんですが、この形にたどり着くまでは、さまざまな試行錯誤があったそうです。

「まず体のどこに本体を装着するかで悩みました。ろう者の方に話を聞くと『肌に直接当たると蒸れる』という意見がある一方で、『洋服だとズレが気になる』という意見もあったんです」

そこで選ばれたのが「髪につける」という解決法でした。

「髪の毛ならセンシティブだけど、間接なのでちょうどいいんじゃないかという話になったんです。ただ髪にはつけられない、という人もいて」

確かに髪の毛が短い人は難しいかもしれませんね。

「その通りです。髪につけるだけだと短髪の方は使えません。またろう学校へ行って気づいたのですが、すでに髪の毛に人工内耳という機器をつけている方もいるんです。髪以外にもつけたいという要望もあったので、装着する部位はあえて特定させず、髪の毛以外にも顔周りや服などユーザーが好きなところに装着できるような構造にしました」

オンテナを見て感じるのは、デザイン的にとても洗練されているということ。実際、2019年度グッドデザイン賞の金賞にも選ばれています。開発当初は「市場規模が大きい高齢者をターゲットにしたほうがいい」という意見もあったそうですが、まずは子どもたちに音の感覚を届けたいという思いが強かったことから、ろう学校でも使ってもらえるような、シンプルでわかりやすいデザインになったそうです。

希望するろう学校には無償で提供

2019年8月1日、富士通のオンラインショップでオンテナは発売されました。19年10月からはアマゾンでも発売。さらに富士通は全国聾学校長会を通じて、希望するろう学校に無償提供も行っています。

「オンテナが使われている様子を実際に見にいったのですが、普段は手話がメインだという子どもたちが自発的に声を出すようになったり、打楽器の音に興味を持ってくれたりする瞬間に立ち会えたのがうれしかったですね」

学校からも「子どもたちの『いただきます』『ごちそうさま』といった言葉のリズムがオンテナを使うことで整った」などの報告があったそうです。

「リズム感は、運動神経や学習能力にも関係する、重要な感覚だと考えています。もちろん聴力がない故に得られる特別な感性や優れた能力もあると思いますが、リズムを感じることで広がる成果もあると思うんです」

スタートアップではない大企業ならではのメリット

本多さんがオンテナの開発を始めたきっかけは、大学1年生のときに聴覚障害を持つ友人ができたこと。手話を学び、通訳のボランティアなどをしながら、自分が勉強しているデザインとテクノロジーを使って聴覚障害を持つ人たちにも音を伝えたいと考えるようになったそうです。

学生時代からオンテナを開発していた本多さんですが、最初に就職したのは富士通ではありませんでした。

「実は在学中の早い段階で内定が決まっていたので、新卒でいったん精密機器メーカーのデザイナーになったんです。でも、ちょうどオンテナが注目されるようになっていたころで、自分はなぜまったく関係のない製品のデザインをしているんだろうとモヤモヤした時期を過ごしました」

2014年度に独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「未踏IT人材発掘・育成事業」に選ばれたことがきっかけで、富士通にプレゼンテーションを行う機会があり、入社。本格的なオンテナの開発がスタートしました。

前職のときはスタートアップとしての起業も考えていたそうですが、障害者への理解が進んでいる富士通に入社し、「大企業で開発することのメリットも実感している」といいます。

「富士通はモノづくりのノウハウを持っている会社なので、技術開発や特許の取得など、オンテナを製品化する過程ですごく助けられました。ろう学校への無償提供やさまざまなイベントと連携できているのも、企業として信頼されているからだと感じています。オンテナの開発が、企業の力を借りながら自分の研究を社会実装していく、一つのロールモデルになれたらと考えています」

障害を持つ人以外にも広がる可能性

新しいコミュニケーションを生むオンテナの描く未来はこれから先どうなっていくのでしょうか。

「世界では3億6000万人以上の方達が聴覚に障害を持っていると言われています。オンテナは言語を特定しないため、機能面ではどの国でも使えるのが強みです。ただ残念ながら現状は電波法が理由で国内のみの販売しかできません。ですから、まずは日本でしっかりと結果を出した上で世界にも届けたいと考えています」

地域だけでなく、利用する人の幅も広げたいと本多さんは考えています。

「将来的にはAIの力で特定の音だけに反応する機能の搭載も考えています。そうすれば、耳の不自由なお母さんが赤ちゃんの泣き声に気づくといった用途にも使えます。健聴者でも、作業現場やランニング中にオンテナを活用することができれば安全につながるでしょう」

さらに「これまでオンテナをろう者の方々と一緒に造ってきたように、目や手足が不自由な方たちとのプロダクト開発にも興味があります」と本多さん。「補聴器や車椅子など、課題をダイレクトに解決できるプロダクトも重要ですが、障害を感じさせないデザインやアイデアを横展開できるモノづくりがしたいんです」

本多さんの言葉はとてもフラットで、ろう者の方々と行う研究・開発を心から楽しんでいるように見えました。

社会におけるマイノリティーの人々は、マスプロダクトの基準に合わせていかざるを得ない機会がまだまだ多いのではないでしょうか。だからこそ、オンテナのように障害を持つ人に寄り添う発想は、そういった人々を救う可能性があると思います。

これから日本では高齢者や寝たきりの人口がさらに増えると予測されています。オンテナのように人間の感覚を補い、サポートするテクノロジーは、私たちの老後、衰えていく身体感覚を拡張してくれる新しい切り口のアイテムとして生かされていくかもしれませんね。

奈津子
女優・タレント。家電総合アドバイザー ゴールドグレード(AV情報家電)。元SDN48。特技は茶道、日舞、家電。TOKYO FM「Skyrocket Company」の「家電で快適! 生活向上委員会」コーナー(毎週火曜午後6時ごろ~)にレギュラー出演中。インスタグラムのアカウント名は「natsuko_kaden」

(写真 藤本和史)

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