スタートアップではない大企業ならではのメリット

本多さんがオンテナの開発を始めたきっかけは、大学1年生のときに聴覚障害を持つ友人ができたこと。手話を学び、通訳のボランティアなどをしながら、自分が勉強しているデザインとテクノロジーを使って聴覚障害を持つ人たちにも音を伝えたいと考えるようになったそうです。

初期のプロトタイプ。進化したオンテナでは映画館などでは『チカチカしすぎる』という声もあったので、点灯しない振動のみのモードも搭載したそう(写真提供・富士通)

学生時代からオンテナを開発していた本多さんですが、最初に就職したのは富士通ではありませんでした。

「実は在学中の早い段階で内定が決まっていたので、新卒でいったん精密機器メーカーのデザイナーになったんです。でも、ちょうどオンテナが注目されるようになっていたころで、自分はなぜまったく関係のない製品のデザインをしているんだろうとモヤモヤした時期を過ごしました」

2014年度に独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「未踏IT人材発掘・育成事業」に選ばれたことがきっかけで、富士通にプレゼンテーションを行う機会があり、入社。本格的なオンテナの開発がスタートしました。

前職のときはスタートアップとしての起業も考えていたそうですが、障害者への理解が進んでいる富士通に入社し、「大企業で開発することのメリットも実感している」といいます。

「富士通はモノづくりのノウハウを持っている会社なので、技術開発や特許の取得など、オンテナを製品化する過程ですごく助けられました。ろう学校への無償提供やさまざまなイベントと連携できているのも、企業として信頼されているからだと感じています。オンテナの開発が、企業の力を借りながら自分の研究を社会実装していく、一つのロールモデルになれたらと考えています」

障害を持つ人以外にも広がる可能性

新しいコミュニケーションを生むオンテナの描く未来はこれから先どうなっていくのでしょうか。

「世界では3億6000万人以上の方達が聴覚に障害を持っていると言われています。オンテナは言語を特定しないため、機能面ではどの国でも使えるのが強みです。ただ残念ながら現状は電波法が理由で国内のみの販売しかできません。ですから、まずは日本でしっかりと結果を出した上で世界にも届けたいと考えています」

地域だけでなく、利用する人の幅も広げたいと本多さんは考えています。

「将来的にはAIの力で特定の音だけに反応する機能の搭載も考えています。そうすれば、耳の不自由なお母さんが赤ちゃんの泣き声に気づくといった用途にも使えます。健聴者でも、作業現場やランニング中にオンテナを活用することができれば安全につながるでしょう」

さらに「これまでオンテナをろう者の方々と一緒に造ってきたように、目や手足が不自由な方たちとのプロダクト開発にも興味があります」と本多さん。「補聴器や車椅子など、課題をダイレクトに解決できるプロダクトも重要ですが、障害を感じさせないデザインやアイデアを横展開できるモノづくりがしたいんです」

オンテナ本体は2万7280円、オンテナコントローラーは3万2780円(税込み。富士通WEB MARTでの直販価格)。イベント支援サービスとして、Ontenna30台を1日20万円から貸し出すサービスも提供している(システム環境構築費やイベント当日の運営費も含む)

本多さんの言葉はとてもフラットで、ろう者の方々と行う研究・開発を心から楽しんでいるように見えました。

社会におけるマイノリティーの人々は、マスプロダクトの基準に合わせていかざるを得ない機会がまだまだ多いのではないでしょうか。だからこそ、オンテナのように障害を持つ人に寄り添う発想は、そういった人々を救う可能性があると思います。

これから日本では高齢者や寝たきりの人口がさらに増えると予測されています。オンテナのように人間の感覚を補い、サポートするテクノロジーは、私たちの老後、衰えていく身体感覚を拡張してくれる新しい切り口のアイテムとして生かされていくかもしれませんね。

奈津子
女優・タレント。家電総合アドバイザー ゴールドグレード(AV情報家電)。元SDN48。特技は茶道、日舞、家電。TOKYO FM「Skyrocket Company」の「家電で快適! 生活向上委員会」コーナー(毎週火曜午後6時ごろ~)にレギュラー出演中。インスタグラムのアカウント名は「natsuko_kaden」

(写真 藤本和史)