悩んだのは「どこにつけるか」

オンテナのホームページを見ると、オンテナを髪につけた少女と襟につけた少年の写真が出てきます。「女性が髪につけると(アニメ『エヴァンゲリオン』の)綾波レイみたいとよく言われます」と笑う本多さんですが、この形にたどり着くまでは、さまざまな試行錯誤があったそうです。

オンテナのホームページ。モデルの2人も実際にろう学校の生徒だという

「まず体のどこに本体を装着するかで悩みました。ろう者の方に話を聞くと『肌に直接当たると蒸れる』という意見がある一方で、『洋服だとズレが気になる』という意見もあったんです」

そこで選ばれたのが「髪につける」という解決法でした。

「髪の毛ならセンシティブだけど、間接なのでちょうどいいんじゃないかという話になったんです。ただ髪にはつけられない、という人もいて」

確かに髪の毛が短い人は難しいかもしれませんね。

「その通りです。髪につけるだけだと短髪の方は使えません。またろう学校へ行って気づいたのですが、すでに髪の毛に人工内耳という機器をつけている方もいるんです。髪以外にもつけたいという要望もあったので、装着する部位はあえて特定させず、髪の毛以外にも顔周りや服などユーザーが好きなところに装着できるような構造にしました」

オンテナを見て感じるのは、デザイン的にとても洗練されているということ。実際、2019年度グッドデザイン賞の金賞にも選ばれています。開発当初は「市場規模が大きい高齢者をターゲットにしたほうがいい」という意見もあったそうですが、まずは子どもたちに音の感覚を届けたいという思いが強かったことから、ろう学校でも使ってもらえるような、シンプルでわかりやすいデザインになったそうです。

希望するろう学校には無償で提供

2019年8月1日、富士通のオンラインショップでオンテナは発売されました。19年10月からはアマゾンでも発売。さらに富士通は全国聾学校長会を通じて、希望するろう学校に無償提供も行っています。

希望するろう学校に無償提供を行っている。写真は実際に授業で使用しているところ(写真提供・富士通)

「オンテナが使われている様子を実際に見にいったのですが、普段は手話がメインだという子どもたちが自発的に声を出すようになったり、打楽器の音に興味を持ってくれたりする瞬間に立ち会えたのがうれしかったですね」

学校からも「子どもたちの『いただきます』『ごちそうさま』といった言葉のリズムがオンテナを使うことで整った」などの報告があったそうです。

「リズム感は、運動神経や学習能力にも関係する、重要な感覚だと考えています。もちろん聴力がない故に得られる特別な感性や優れた能力もあると思いますが、リズムを感じることで広がる成果もあると思うんです」

オンテナ10個とコントローラー1個を持ち、まるでサンタさんのように聾学校を実際に回っているという本多さん
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