なお、ノロウイルスにはいろいろな型があるため、予防効果のあるワクチンは開発されていない。「二枚貝などウイルスに汚染されているものを生などで食べないことも大切ですが、予防法として特に重要なのは『手洗い』の徹底です」と前田さんは強調した。

トイレの後、手のどこが汚れやすい?

その言葉を受けて、続いての講演は公益社団法人日本食品衛生協会出版部制作課の神薗紀子さん。「手洗いマイスター」の資格も持つ神薗さんが「衛生的な手の洗い方」を紹介した。

「ウイルスの感染を防ぐには食品の加熱調理や保管時の温度管理で増やさないという方法もありますが、高い温度がかけられない場合もありますし、ノロウイルスは少量でも感染します。ウイルスをつけないよう手洗いを徹底することが有効です」(神薗さん)

外出先から帰ってきたとき、トイレに行った後、料理や食事の前、ゴミに触れた後など、ウイルスが手についたり、手で口元を触ったりする可能性が高いときは必ず手を洗うようにしよう。

ただし、せっかく手を洗っても、洗い残しがあっては台無しだ。手に蛍光ローションを塗ってから洗い落とし、ブラックライトを当てると落とし切れていない部分が白く光る。その実験から、多くの人が洗い残しやすい部分が明らかになったという。

「指先、爪と皮膚の間、手のひらのシワ、親指の付け根、手首。これらが特に洗い残しやすい部分です」と神薗さんは指摘する。

ちなみに、トイレの後、お尻を拭くと手のどこが汚れやすいかというと、指先、親指の付け根、そして袖口だそうだ。「つまり、汚れやすくて、洗い残しが多い部分に注意しないと危ないのです」(神薗さん)

「洗い残しのない手の洗い方」を覚えよう

では、具体的にどのように洗えばいいのか。日本食品衛生協会が勧める「洗い残しのない手の洗い方」は次の通りだ。

1. まず、流水で手を洗う

2. 洗浄剤を手に取る。固形石せっけんは菌やウイルスが付着するので液体のほうがいい

3. 手のひら、指の腹面を洗う

4. 手の甲、指の背を洗う(骨と骨の間に沿うように、シワを伸ばすように洗う)

5. 指を交差して、指の側面や股の部分を洗う

6. 親指と付け根のふくらんだ部分を洗う

7. 他方の手のひらをひっかくように、爪と皮膚の間が触れるようにして指先を洗う

8. 手首を洗う

9. 流水で洗浄剤をしっかり洗い流す

10. 手を拭く。タオルの共用はしないこと。使い捨てのペーパータオルがベスト

11. できれば最後にアルコールをスプレーする

ご存じの通り、手洗いは風邪やインフルエンザの予防にもなる。30の研究を分析した論文によると、手洗いによって風邪など呼吸器系疾患の発症率が21%減ることが分かったという(Am J Public Health. 2008;98:1372-81)。

自分がつらい思いをするだけならまだしも、ノロウイルスは感染力が強いので、いったん感染してしまうと家族や同僚をも巻き込みかねない。免疫力が強い人の場合、不顕性感染といって症状が出ないまま感染し、自分でも気づかぬうちにウイルスをまき散らしてしまうこともある。ウイルスを体内に入れないため、しっかり洗い残しなく手を洗うことを心がけよう。

(ライター 伊藤和弘)

前田正さん
東邦大学医療センター大森病院総合診療・急病センター助教。日本感染症学会専門医・指導医。2005年東邦大学医学部卒業、2007年より東邦大学医療センター大森病院総合診療・急病センターレジデント、2012年より現職。日本内科学会総合内科専門医・指導医。労働衛生コンサルタント。
神薗紀子さん
公益社団法人日本食品衛生協会出版部制作課課長補佐。東邦大学薬学部卒業、薬剤師。食品の検査や普及啓発担当部署を経て2016年より現職。手洗いマイスター、HACCP専門講師、HACCP指導者養成研修修了。

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