タピオカ店やナイトプール 若きクリエーターの発想
「インスタ映え」で話題になったお台場のナイトプール「OWP」や、タピオカミルクティー専門店「Tapista」のブランディングを手掛けたのが、クリエーティブディレクター・辻愛沙子さんだ。14歳で単身欧米へ留学、大学在学中に広告会社の学生社員になるなど、「普通」の枠にとらわれない生き方を貫いている。10月からは日本テレビ系のニュース番組「news zero」に水曜レギュラーとして加わった。次々とヒットを生み出す秘訣とは。辻さんが目指すクリエーター像や今後の目標を聞いた。
仕事が楽し過ぎて「大学に行ってる場合じゃない」
昨年ごろからタピオカミルクティーの人気が再燃し、空前のブームが続いている。そんな中、今年4月に代官山に旗艦店をオープンしたのが、タピオカミルクティー専門店「Tapista」だ。味だけではなく「フレンチダイナー」をテーマにした内装のかわいさが若い女性の間で評判になっている。そのTapistaのブランディングを担当した辻愛沙子さんは、慶応義塾大学SFCの学生でありながら、3年生で広告代理店エードットの学生社員となり、以来クリエーティブディレクターとして活躍している。原宿の人気スイーツ「RINGORING」や、2017年夏に「インスタ映え」が流行語となるきっかけにもなったナイトプール、「お台場ウォーターパーク」の空間デザインも辻さんが手掛けたものだ。
辻さんは単なる「アドバイザー」的な立場ではなく、ブランドコンセプトの立案、企画書作りからディレクションまで、広告のプロとして仕事をこなす。なぜ在学中に入社を決意したのだろうか?
映像制作に興味を持ち広告会社でインターン
「昔から音楽や絵を描くのが好きで、映像制作の仕事に進もうと考えていたんです。中でも、より多くの人に映像を届けられる広告に興味が湧いて、大学在学中にいくつかの広告会社のインターンに行っていたんです」
現在の勤務先のインターン初日に、クライアントとのスキー場の企画の打ち合わせに同行した。スノーボードが好きだったこともあり、上司に話を振られると「若い世代がスノボに求めているもの」について熱弁を振るったと言う。
「予想以上に私の意見を貴重なものとして受け止めていただいて、後にそのお仕事を受注することになりました。社会で意思決定権を持っている上の年代の方々は、こんなにも若者の言葉に耳を傾けてくれるのかと衝撃を受けました」
インターン開始から2週間後に「正式に入社しないか」という誘いを受け、正社員として入社することに。仕事が楽し過ぎて「大学に行っている場合じゃない」と思うほど、仕事に夢中になっていた。
「入社して3カ月で、もともとローンチしていたお台場のナイトプールの仕事を一人で任せてもらえました。厳しい面もありますが、やりたいことがある人にとっては最高の会社だと思います。私はゲームやアニメ、アートなど好きなものがたくさんあるんですが、この仕事を始めて自分の『好き』が生かせることを知り、そこに価値を感じてもらえるんだと思うことができました」
14歳で単身スイスへ、「普通」に捉われずに生きる
在学中に広告の世界に飛び込むことに迷いはなかったと話す辻さん。「普通」に縛られない行動力は、10代の頃から顕著だった。14歳で単身、スイスの全寮制学校へ留学することを決めたのだ。
「日本では幼稚園から大学までの一貫校に通っていたのですが、穏やかで温かすぎる日常が続くことに『このままでいいのだろうか』と危機感を覚えて、全く知らない世界を見たいと思ったんです」
自ら資料を集め、両親にプレゼンをして説得。自由な生き方を尊重する両親の後押しがあり、中学2年生からイギリス、スイスに留学、高校生活はアメリカで過ごした。
「全寮制の学校だったため、同じ部屋や学校の隣の席に自分とは違う人種の人が座っているのが当たり前の世界。校則で髪の色を統一させるような『普通』という概念の作りようがないんです。多様性や自由を大切にしているのはその体験が大きかったと思います。その頃に触れた建築物やアート、カルチャーは、Tapistaの内装など、現在の仕事にインスピレーションを与えてくれています」
社交的ではない自分でも、物づくりで人を喜ばせられる
辻さんは、同年代の中ではナイトプールなどに遊びに行くようなタイプではなく、一人で物づくりをしたりするのが好きなタイプだ。日常会話など人とのコミュニケーションが苦手で、そこにコンプレックスを感じたこともある。
「物づくりなど、好きなことにはいくらでも集中できるけど、いわゆる『報連相』や、日常会話で場を盛り上げるのが苦手なんです。それでも物づくりを通して、人を喜ばせることができる。ナイトプールなどで、お客さんが楽しく過ごしているのを見ると本当に感動します」
クリエーティブディレクターという仕事は「全教科で平均点が取れる人間でなくても、1教科、2教科だけは誰にも負けない自信がある。そんな人間が輝ける世界」だと感じるそう。
現在は入社3年目で、仕事の取り組み方に変化が現れてきたと言う辻さん。
「昔は一人で頑張って仕事をしようとしてきましたが、最近はチームで仕事をする楽しさが分かってきました。プロジェクトごとに、企画の特性やクライアントさんのタイプ、目指すクリエーティブの方向性などを鑑みてベストチームを組むことで、一人の力をはるかに超えたものが出来上がっていく。『誰でもいい』じゃない、このメンバーだからこそというアウトプットが仕上がった時や、メンバーの特性や良さが100%引き立った時に、自分のこと以上に喜びを感じます。参加してくれた人全員が誇りに思えるような仕事を作っていきたいですね」
数字が分かるクリエーターを目指したい
メディアでたびたび「女子大生なのに」と取り上げられることについて「注目していただけるのはありがたいこと」としながらも、ジェンダーの視点や、自らのキャリアを考える上で違和感を覚えているという辻さん。肩書や若さに依存せず「辻の仕事」として認められることを目指している。目標とする将来像は「数字が分かるクリエーター」だ。
「クリエーターは数字に対する意識が弱いと思われがちなのですが、そのバランス感覚のあるクリエーターになりたいと思います。コストをかけずにどれだけいいものを作れるか、ビジネスとクリエートは相反していないと私の人生で証明したい。そのために組織作りや経営をもっと学んでいく道にシフトチェンジしていきます」
これから作りたいものを聞くと、「人生でやりたいことがあり過ぎる」という本人の言葉通り、アニメ制作や産後の女性の支援施設作りなど、興味の対象の話が尽きることがない。社会人になれば好きなことは諦め、趣味にするしかないと考える人も多いが、辻さんの場合は真逆だ。
「本気で『好き』を貫き通すと、好きなことが仕事になるんだと感じています。もちろん、『好き』を追求して仕事にするには楽しさだけでなく、厳しさもあります。並々ならぬ努力の過程を楽しめるかどうか。そして、その先に出てくる制作物への思いが、さらに楽しさを加速させるものだと思います。
最近は、就職に関する悩みを相談されることも多いんですが、『仕事をするって学生時代より楽しいぞ』と伝えたいですね」
arca CEO / Creative Director。社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ミュージックビデオ、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。この春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。10月に実施したLadyknows Fes 2019では、500円で受診できるワンコイン婦人科健診を実施し話題に。2019年10月より報道番組 news zero にて水曜パートナーとしてレギュラー出演。作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。
(取材・文 都田ミツ子、写真 吉澤咲子、構成 浜田寛子)
[日経doors 2019年9月10日付の掲載記事を基に再構成]
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