こうした状況に一石を投じているのが兵庫県明石市です。養育費が払われない場合、市が立て替え、市が回収するという仕組みを検討しています。同市は「日本は、親が離婚した子への支援が欠けている」という問題意識から、対策を進めているそうです。

母子家庭の貧困は、そこで暮らす子どもの貧困を意味します。日本の将来を担う子どもたちがよりよい環境で育つよう、状況を改善する様々な手立てが必要とされています。

大石亜希子・千葉大教授「次世代を社会で育てる視点を」

日本のシングルマザーの労働状況について、千葉大の大石亜希子教授に聞きました。

――シングルマザーはどのくらい働いているのでしょうか。

大石亜希子・千葉大教授

「日本のシングルマザーの就労率は、先進諸国の中でも特に高く、労働時間も長いです。正社員の場合はもちろんですが、パートなど非正規社員の場合でも、シングルマザーは年間2000時間近く働く人が多いです。働き盛りの成人男性と同じレベルです」

――なぜ働いても貧困なのでしょうか。

「結局は賃金が低いのです。日本の女性正社員の時間あたり賃金は、男性正社員の7割ほどです。さらに女性非正規社員の時間あたり賃金は、男性正社員の半分ほどです。この二重の賃金格差があるために、年間2000時間働いても満足な収入が得られていません。しかも長時間働けば、家庭で子どもをケアする時間が減ってしまいます。就労促進による自立支援には限界があるといえます」

――日本が就労促進に力を入れたのはいつごろでしょうか。

「1990年代に米国や英国で進んだ福祉改革の動きを模倣した経緯があります。米国では『未婚のシングルマザーが働かず福祉依存になっている』と問題視され、減税と現金支給を組み合わせた『給付付き税額控除』の導入など、働く意欲を高める改革が進みました。日本も同時期に離婚が増え、児童扶養手当の受給者が増えていたことから、財政支出の抑制のため、米国を見習いました。しかし日本はシングルマザーの就労率がもともと高いうえ、賃金格差が大きく、米国とは労働状況が異なることを無視していると思います」

――母子家庭の貧困にはどのような対策が必要だと思いますか。

「養育費の不払いへの対応は必要でしょう。ただ、どの国でも離別する父親は経済的な問題を抱えていることも多いので、養育費に期待をかけすぎるのがいいとは思いません。子どもの貧困が家庭内の問題として片付けられ、国が子どもを育てるという意識が薄れてしまう可能性があります。児童手当など、子育てする人に直接届くお金を増やすことが大切です。出生数の減少が続くなかで、次世代を社会で育てていくという視点が必要ではないでしょうか」

(福山絵里子)

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