出世する課長はどこが違うのか? 55のスキルで点検
『課長のABC』 石田淳氏
出世を左右する重要な分岐点とは。画像はイメージ=PIXTA
優れた企業トップの多くが課長時代に頭角を現している。多くの企業で出世レースの重要な分かれ目となりやすいポストなのだ。『課長のABC』(日経BP)を書いた石田淳氏はいわゆる中間管理職の底上げが「企業の生産性アップに欠かせない」とみる。課長を鍛える「課長塾」のエッセンスを示した同書を手がかりに、課長スキルの磨き方を聞いた。
マネジメントを教わらない悲劇
課長職に就く際、課長研修を受ける決まりになっている企業は少なくない。その場では人事考課の手順や、コンプライアンスの徹底など、立場にふさわしい振る舞いを教わるケースが多い。しかし、チームビルディングや課題解決、部下育成など、すぐに必要になる実践的な知見を授けるカリキュラムが整っているのはまれだろう。「課長という役割に、きちんと業務やスキル、ミッションを関連付けていないのが大半のケース。本来は利益の源泉なのに、ミドルマネジメントは不当に軽く扱われてきた。課の取りまとめ役として何となく据えているところが多い」と石田氏は指摘する。
課長として仕事を始めれば、リアルな課題・難題に直面する。似たような前例はあっても、踏襲できるお手本ばかりとは限らない。課を預かるマネジャーの立場から独自に判断することを求められるのに、本人がロジックや根拠を持ち合わせていないことも起こり得る。行き当たりばったりに判断していると、部下が離れていきかねない。こうした課長クライシスについて石田氏は「マネジメントをちゃんと教わっていないのだから、苦労やあやまちは避けられない。課長になる前から学び始め、なった後も学び続ける姿勢が必要」と自然体や無手勝流からの卒業を促す。そして課長術は学んで習得すべきスキルだと位置づける。
全5章にわたって、55の項目が用意されている。いずれもリアルで具体的だ。「『電話を取れ』は半ば脅迫」「部下への指導はエビデンス重視」「ハラスメント問題は、関係性ではなく本人の問題」など、部下との向き合い方を諭す項目が目立つ。「今やチームで成果を上げていく時代。でも、怒鳴ってばかりの上司や飲み会カルチャーに慣れてきた課長世代は、若い部下との接し方に自分の経験を生かせない」(石田氏)。結果的に部下との間に距離ができたり、一体感が損なわれたりしているという。「気合と根性では、もう誰もついてこない。業務命令しか伝えない課長は自分のキャリアも先細りさせてしまう」と、チームビルディングの大切さを訴える。
「中間管理職」という名が生む誤解
今の課長にはある意味、同情を禁じ得ないと、石田氏はみる。大半がプレーイングマネジャーで、自分も業務成果を求められている。営業成績とマネジメント職務の両方を期待され「ミドルマネジメント層が押しつぶされそうな状況にある」と、石田氏は懸念を隠さない。「中間管理職」という呼び名は、部下を管理しなければという、誤った責任感を生みやすい点で「なくしたほうがいい」という。そんな立場を嫌って「課長になりたくない」と考える若手も増える傾向あるというが、石田氏は「ミドルマネジメントの経験は自分のためになる」と力説する。きちんとミドルマネジメントをこなせる人材は多くないだけに、「先々、転職するにあたっては、すぐにチームで成果を上げられるリーダーとして堂々と自分を売り込める」からだ。収益確保のエンジン役を担うミドルマネジメント層には、常に一定の人材ニーズが存在しているという。