褒める達人が指南 部下のやる気を引き出す決めぜりふ『できる大人のことばの選び方』 松本秀男氏

ネガティブな言葉が浮かんだら、ポジティブに言い換えるアレンジを考えてみるといい。たとえば、「不安→スリル満点」「前例がない→チャレンジャー」など、少しおどけた感じが加わると、相手の緊張をほぐす効果が期待できる。部下が提出した企画案を、「見通しが甘くて、先行きが不安。前例もない」と突っ返す上司より、「何だかスリル満点だなぁ。結構、チャレンジャーだけど、どう、一緒にもう少し練ってみる?」と返す上司のほうが部下からは頼もしく映るだろう。「相手の意欲を保ちつつ、改善策に道を開き、可能なリカバリーを試みるという向き合い方は信頼につながりやすい」(松本氏)

相手を勇気づけたり、背中を押したりする表現もたくさんレパートリーに加えておきたい。松本氏のおすすめは「さて、何から始めよう」。ひとしきり相手から提案を聞いたところで、あれこれとプランの穴探しを始める前に、こう切り出すことによって、提案者への基本的な共感を示せる言葉だ。

細部で気になる課題はあるだろう。確認しておきたい前提条件もあるはずだ。しかし、あえてそういった「枝葉」を先送りして、大枠での賛同を打ち出すと、提案者は安心を覚え、細部の検討にも熱が入る。「ちょっと、待って。いろいろと気になるんだよね」と返して、プランにケチをつけ始めてしまうと、提案者は立ち位置のずれを感じ取る。「自分のほうが立場や知見の面で上だと示したがる行為はチームの害になりがち」と、松本氏はリーダー・上司の「偉ぶり」を戒める。

「自分褒め」のすすめ

楽観的な態度も、チームを勇気づける。トラブルが生じた際、「これは何のチャンスだ。さらにこの商品をレベルアップするきっかけをもらったな」とチームに語りかければ、士気の落ち込みを防げる。「だから言ったじゃないか。誰が悪いんだ」と、責任回避に走るリーダー・上司と見比べれば、頼もしさは際立つ。

テニス解説者・松岡修造氏は「崖っぷち、だーい好き」といった超ポジティブ発想で有名だ。どうせチームで乗り越えなければならない課題であるなら、チームの意欲を高く保ち、気持ちをなごませる言葉を選ぶのが賢い判断。「分かっている課題を深刻になぞって、メンバーを落ち込ませる意味はない」(松本氏)

ポジティブな言葉選びが有益なのは、チームや部下に対してだけではない。時には自分にもささやくべきだと、松本氏はいう。たとえば、希望に反した人事異動が決まった場合、昇進する同期をねたむのではなく、「面白い形で成長させてもらえそうだ」「全然知らない分野を勉強する機会になる」と意識をシフトすれば、「キャリアが終わった」と嘆く必要はなくなる。

仕事量が多いときに「きつい、しんどい」と考えると、前に進めなくなってしまいそうだが、「きょうもよく頑張った」「うまいビールが飲める」とずらせれば、鬱屈するのを避けやすくなるかもしれない。「自分を褒めるというスキルは、曲折が避けにくい仕事人生を続けていくうえで意味がある」と、松本氏はメンタルヘルスやモチベーションを保つための「自分褒め」をすすめる。

褒めどころの探し方とは

褒めてもらうのにも、いくらかのコツがあるという。松本氏にいわせると、「日本人は褒められるのがあまり上手ではない」。成果や腕前を褒められても、「いやいや、私なんかまだまだ」「褒められるような仕事ではありませんから」など、過剰に謙遜してしまう人が珍しくない。

しかし、「謙遜と謙虚は別物。謙虚は大事だが、妙にへりくだるのは、褒めた側との間で、気持ちがすれ違う結果を招く。おごらず受け入れる褒められ方を覚えてほしい」と、松本氏は褒められ力のアップも求める。素直に褒めを受け入れるのは、自己肯定につながり、満足度もアップするという。

褒める場合は着眼点が肝心だ。松本氏が提案するのは「成長の幅」を褒める方法だ。単純に成果だけを褒めると、目立った成果が出ていない人は褒めてもらいにくくなる。担当分野や経験量などの違いがあり、チーム全員が平等な立場ではないことを思えば、損得が生じやすい。

しかし、前回の取り組みと比べての進み具合や失敗の減少など、変化・改善したポイントに目を向ければ、「褒めどころを探しやすくなる」(松本氏)。リーダー・上司が成長のプロセスを褒めれば、部下は「しっかり仕事ぶりを見てもらえている」と感じるだろう。「若年層が仕事に求める成長実感を感じ取ってもらえる褒め方」と、松本氏は「伸び幅褒め」をすすめる。

やわらかく肯定する

松本氏がかつての上司から見習ったのは「それもあるね」という応じ方だ。部下の提案に必ずしも全面的に同意はしないが、提案を頭ごなしに否定せず、アナザーのプラントして受け入れる態度を示す。「やわらかく肯定してもらえるので、提案者はがっかりせずに済む。自分の提案が部分的にでも採用される可能性も感じられる」(松本氏)

イノベーションを起こさないと、どの企業も生き残りが難しい時代に突入した。ダイバーシティー(多様性)に富むチームから、期待を超えるアイデアを引き出すキーフレーズは「あ、それもあるね」かもしれない。

松本秀男
一般社団法人日本ほめる達人協会専務理事。1961年東京生まれ。国学院大学文学部卒業後、歌手さだまさし氏のプロダクションに8年半勤め、アーティスト活動をサポート。その後、家業のガソリンスタンド経営を経て、45歳でAIU損害保険(当時)の代理店研修生に。実績を重ねた後、同協会の専務理事に。「ほめる達人(ほめ達!)」として企業研修やセミナー、講演などで活躍。著書に『できる大人は「ひと言」加える』などがある。

一瞬で「信頼される人」になる! できる大人のことばの選び方 (青春新書プレイブックス)

著者 : 松本 秀男
出版 : 青春出版社
価格 : 1,100円 (税込み)

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