褒める達人が指南 部下のやる気を引き出す決めぜりふ『できる大人のことばの選び方』 松本秀男氏

しばしば犯してしまいがちな失敗は「お世辞、おべんちゃら」と見えかねない、下手な褒め方だ。まずいパターンは「根拠レスな褒め」だという。とってつけたような言葉からは、「とりあえずご機嫌を取っておこう」といった計算が透けてしまい、「かえって警戒感や不信感を呼び覚ましてしまう」(松本氏)。逆に、好ましいのは「根拠あり」の形。「価値を発見して伝える」というのが望ましい褒め方だと、松本氏は説く。褒めるポイントを探すところにエネルギーを割くのが、褒め上手への第一歩だ。

相手に顔を向けることが基本

松本秀男氏

ただし、容姿や学歴などを褒めるのは、かえってハラスメントに問われかねない。褒めてもらいたくないと、本人が感じている点を褒めるのは逆効果になりがちだ。むしろ、相手の取り組みや成果物など、仕事に関係が深く、本人が「頑張った」と自覚している対象を褒めるほうが自信や納得感につながりやすい。「自分を正当に認めてくれる、大切に思ってくれると感じた相手のために、人は大きなパフォーマンスを発揮する」と、松本氏は褒めを介したエンパワーメントの効果を語る。

最初に挙げた「あ、おはよう」の例が「あ、小林さん、おはよう」とバージョンアップすれば、気持ちの伝わり具合は一段と高まる。名前で特定されているので、返事しやすくなり、「自分を見てもらえている」というモチベーションアップ効果が朝から生まれる。「大事なのは、相手を『人』として認識すること。顔を向けない態度はモノ扱いと受け取られやすい」と、松本氏は言葉以前の向き合い方を矯正するよう求める。パソコンを打ちながら、書類を受け取り、「はい、ご苦労さん」と、形式的に言葉だけを発するのも、部下との関係を冷やす。

松本氏自身も苦い経験がある。外資系企業に勤めていたころ、チームの仲間を数字や実績で見る感覚があったという。「嫌な上司だったかもしれない」と、反省交じりに振り返る。たくさんの企業をみてきて感じるのは「パフォーマンスの高い職場は『空気』がいい」という点だ。相手を大切に思う気持ちの伴った言葉が交わされ、互いを元気づけている。「安心して働ける居場所だと感じる心理的安全性がポジティブな取り組みを引き出している」とみる。相手をいたずらに攻撃せず、長所を見付けようとする態度は心理的安全性を下支えする点でも重要だ。

ポジティブに言い換える

松本氏が日本のリーダー・上司層に求めるのは、「もっと言葉数を増やす」という姿勢だ。「よくしゃべる=軽薄、安っぽい」といった思い込みを持たれやすいが、「黙っていては伝わらない」(松本氏)。黙っている態度そのものが「偉そう」「強面(こわもて)」など、近寄りがたい雰囲気を生んでしまう。言葉数を増やすにあたっては「前向きな表現を優先して使いたい」。

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