褒める達人が指南 部下のやる気を引き出す決めぜりふ『できる大人のことばの選び方』 松本秀男氏

やわらかく肯定することでモチベーションを高める。画像はイメージ=PIXTA
やわらかく肯定することでモチベーションを高める。画像はイメージ=PIXTA

チームを動かすリーダーにとって、言葉は最強のツールだ。しかし、誰もが「言葉遣いの達人」ではない。『できる大人のことばの選び方』(青春出版社)を書いた松本秀男氏は「言葉の操り方はたくさんのパターンを知って、ケイスバイケイスで使い分けるのが得策。たとえば、おはようの直前に『あ、』と添えるだけでも、全く受け取り方が変わる」という。周りとの関係を変えるテクニックを教えてもらった。

わずかな工夫が言葉の印象を変える

「おはよう」と「あ、おはよう」。音ではたった1音の「あ」が加わっただけの違いだ。でも、あいさつを受けた側の印象はかなり違うという。なぜか。「あ」という言葉には、相手の存在をしっかり認識して、直後の「おはよう」を発したというニュアンスがあるから、受け手は「自分個人へのあいさつ」「私を見てくれた」と感じる。当然、視線も相手に向けられているだろう。つまり、コミュニケーションが成立している。

一方、ただの「おはよう」は聞き手を特定していないので、役職者が机の間を通りぎわにそのエリア一体に何となく発した、儀礼的なあいさつに聞こえがちだ。相手を見ていない可能性もある。言われた側は「自分に向けられたメッセージかどうかが分からないから、返事しづらい。言葉だけが素通りしていく」と、松本氏は指摘。「不特定多数へのおはよう」はあいさつの効果が薄いとみる。

この「あ」が示すように、わずかな工夫が言葉の印象を変える。だが、「知らないテクニックは使いこなしにくい」(松本氏)。幼いころから自然と身につけてきた日本語だが、対人ツールとしての使いこなし方を体系的に学ぶ機会は多くない。習い事やクラブ活動で教わるケースもあるが、多くの場合、先輩や目上への敬意を示す表現が中心になり、同僚や部下を元気づけたり、チームの空気を温めたりといった使い方はなかなか学べない。「日本人だから日本語が使えるはずと思い込まず、大人になってから学び直すで臨むほうがよい」と、松本氏はすすめる。

「とりあえずご機嫌を取る」はNG

「部下はほめて伸ばせ」といわれることがある。効果が期待できるかもしれない。だが、「ほめるのは、そう簡単ではない」と、松本氏は注意を促す。松本氏は「日本ほめる達人協会」の専務理事を務めている。目の前の人や商品、出来事などに独自の切り口で価値を見つけ出す「価値発見の達人=ほめ達!」を育てる団体だ。しかし、「無理にほめようとすると、ハードルが上がってしまう。プラスのニュアンスを帯びた言い方を選ぶところから始めるほうが上達につながりやすい」(松本氏)

企業が研修で松本氏に期待するのは、ポジティブな言葉選びを通じて、チームのパフォーマンスが上がり、退職者が減るといった効果だという。メンタルヘルスを保つうえでも、「リーダーや上司の発する言葉は影響力が大きい」(松本氏)。とりわけ、「入社から3年以内に3割が辞める」といわれる若年層のつなぎ留めについては、実社会に出て、初めて接する上司・先輩の物言いがきっかけになりやすい。「今の若者はコミュニケーション能力が高いので、いっそう言葉選びに慎重な態度が求められる」(松本氏)

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