日経ARIA

「この家で死ねたら、ありがたい」

「まったく意識していないわけではなかったけれど『確かに、そうなるかもな』と思ったらショックで。だからというわけではないけれど、もしもの時に備え、親友に合鍵を預けているんです。しかも、孤独死を時々イメージトレーニングしています。腐るところとか(笑)。いざ、想像してみると、ここで死ねたらありがたい。むしろ幸せというか、ラッキーだなと思う自分もいます。

好きなものに囲まれたこの住まいは、私にとってスポーツカーがメンテナンスのためにピットインするピット同然。言ってみれば、『大人として、自分で自分の機嫌をなおせる場所』ですね。ここに帰ってくれば、私の一定レベルの機嫌の良さを保てることが保証されています」

「花に水やりをする時間はすごく楽しくて好きなんです。ひとり時間の楽しみのひとつ」(鈴木さん)

演出家という職業柄、機嫌のいい状態で毎日稽古場に行けることは、周りのスタッフや俳優たちのパフォーマンス能力を引き出す上でもとても重要なこと。単に有能なだけではダメで、現場で新しい発想が生まれたり、みんなが最大限の能力を発揮できたりする場をつくるには、やっぱり機嫌のいい状態でいなくてはいけない。

「自分が機嫌よく過ごすためにぜいたくをする必要はないけれど、他者にも影響してしまう自分の『ご機嫌』をキープすることには、いくらでもお金を使おうと思っているんです。結局まわりまわって自分の元にかえってくるし、そのほうがお得だからです。この家には稽古中の舞台のスタッフや俳優を呼ぶことをありますが、自分から仕事の話は一切しません。だって、私もここにいる人もみんな機嫌よく過ごしたいじゃないですか。いつもくだらない話ばかりしていますよ」

自分が好きなものを選ぶことに関しては、すごくわがまま

人が訪ねてくる家といっても、「友達は毎日訪ねてくるわけではないし、基本、ひとりにはなりたい放題のひとり暮らしです。私、ひとり時間も、ものすごく好きなんです」

この住まいも、鈴木さんがひとり時間を使ってひとつひとつ作り上げてきた。「とにかく好きなものを選ぶことにかけては、わがまま」と言うが、海外で調達したり、高価なものを購入したりしているわけではない。不必要にお金をかけず、自分の好きなものをとことん追求し、手に入れた後も必ず一手間加えて、アレンジするのが鈴木流だ。

トイレの側面には大きな時計とシール。シールのイラストは鈴木さんが白いマジックで手描きをしてアレンジ。「時計はニトリで購入したもの」と聞いて、ビックリ
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選び抜いたほうが、ひとつひとつを十分に味わえる