ダンディズムとは? このように考えはじめるのは、およしなさい。眠れなくなってしまいます。

でも、「伊丹十三に倣え」ということなら、至極簡単であります。私は「伊丹十三」こそダンディズムの化身だと思っているのですから。

独自の価値基準に裏打ちされた美学

では、なぜ「伊丹十三」がダンディズムの化身であるのか。それは伊丹十三の着る舶来の服がことごとく、自然に見えたからであります。

伊丹十三は、外車のジャガーのことを英語風に「ジャギュア」と言いました。もし私が同じように「ジャギュア」と言ったなら、歯が浮いてしまう。気障(きざ)この上もなし。でも、伊丹十三の「ジャギュア」は自然に聞こえるのです。

服も同じこと。舶来一流、とびきり上等の服を着るのは、それほど難しいことではありません。懐にゆとりさえあればいいのですから。しかし、それが買えることと、着て自然に見えることとの間には、大きな開きがあります。

ポンチョとのコーディネートもよく似合う (c)伊丹プロダクション

「なるほど、ロンドンからヴェニスへ靴を買いにゆくのはキザな話かも知れぬ。が、この『ドッグ・シューズ』には、一種の中毒作用があって、禁断症状をもたらすのだ。『ドッグ・シューズ』無しでは、わたくしの『服飾プラン』が完結しない!」(「ヨーロッパ退屈日記」伊丹十三著、以下同)

伊丹十三が1960年代に愛したものの一つに「ドッグ・シューズ」があります。イタリア・ヴェニス(ベネチア)の「ポッリ」という店でしか売っていない、スエードの一枚革の軽くて高価な靴です。

「ポッリ」は小さな店で、知る人ぞ知る店。その靴がすり減ったからと、ロンドンからヴェニスに飛んで6足のドッグ・シューズを買いに行ったのです。これは「偏愛」と言ってよいでしょう。

かように伊丹十三には独自の価値基準に裏打ちされた美学がありました。例えば、そのむかし、自身で爪革を作ったことがあります。爪革とはげたの先に付ける雨よけで、たいていは黒のエナメルなんかでできています。なんと伊丹十三はルイ・ヴィトンの鞄(かばん)を買ってきて分解し、その材料を使って爪革にしたのです。これも独自の価値基準であり、美学であったのでしょう。

ソフト帽はボルサリーノを愛用した (c)伊丹プロダクション

「ディオールで買った、暗い、淡い、臙脂(えんじ)のペルシャ模様のタイなぞは絶妙だったなあ。これは、ハンカチと組になっていたが、これは間違っても同時に使ってはいけないのだよ。」

ペルシャ模様とは今でいうペイズリーのことでしょう。上等のネクタイには上等の絹地が使われます。織りにしても染めにしても、色数が多く、20色も30色も使うと柄のコントラストが深くなります。伊丹十三用語としては、「暗い、淡い」となったのでしょう。

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英国風のスーツを着るなら、せめて「ブリッグ」の傘を
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