自分では気づきにくい「いびき」。周囲から「うるさくて眠れない」と指摘されてから、途端に気になり始めたという人も多いのではないだろうか。いびきは、音の問題だけではなく、様々な病気と関連し健康へ大きく影響することがあるとされている。そんないびきの改善に、効果が期待できるエクササイズがある。いびきによる健康問題や対処法について、太田睡眠科学センター&外科学センター所長の千葉伸太郎さんに詳しく話を聞いた。
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いびきは、本人のみならず同じ部屋で寝ている人にとっても、睡眠障害や様々な健康被害を引き起こす大きな問題だ。いびきとはそもそも何なのか。いびきは、どうして様々な健康被害をもたらすのだろう。
千葉さんによると、いびきは、上気道(鼻から喉までの空気の通り道)が狭くなることで呼吸のたびに生じる摩擦音。つまり、呼吸がしづらくなっている状態を示し、ひどい場合には肺に送り込まれる空気の量が減ってしまったり(低呼吸)、気道が完全に閉塞して一時的に呼吸が停止したりすること(無呼吸)もある。自分ではよく寝たつもりでも、呼吸が苦しいため眠りの質が低下し、日中に眠気が出たり、頭がぼーっとしたり、疲労感が抜けなかったりする場合には、就寝中にいびきをかいている可能性がある。
もちろん、いびきをかく人すべてが低呼吸や無呼吸状態になっているわけではないが、睡眠中に低呼吸や無呼吸が1時間当たり平均5回以上生じ、かつ日中の眠気や倦怠感などの症状を伴う場合は「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome 以下、SAS)」とされる(現在、睡眠障害の国際分類では睡眠時無呼吸症候群は睡眠時無呼吸と名称が変わっているが、ここでは睡眠時無呼吸症候群SASとして扱う)。
1時間当たりの無呼吸と低呼吸を合計した回数(無呼吸低呼吸指数)が
・5回以上15回未満…「軽症」
・15回以上30回未満…「中等症」
・30回以上…「重症」
「軽症の場合、すぐに治療が必要というわけではありませんが、重症のSASを15年間放置した場合、心筋梗塞などをはじめとする循環器系疾患や脳血管障害の合併により生存率が約50%低下するというデータもあります。 さらに、SASには至らない軽度のいびきであっても、放置すると、将来重度のSASへと進行することもあるため油断はできません。 やはり、うるさいいびきは、放置しないことが大切です」
大きないびきは睡眠時無呼吸症候群の可能性大
いびきをかく人の健康リスクとしては、SASに関連する疾患として、心筋梗塞、脳出血などの血管系疾患、合併症として生活習慣病(高血圧、糖尿病。脂質異常症)のリスクが高まることが挙げられる。また、最近では、正常眼圧緑内障[注1]との関係も指摘されている。「ほかに、いびきによる睡眠障害から、うつ病、男性の性機能不全、夜間頻尿などにつながることもあります。また、同じ部屋で寝る人にとっても、騒音性難聴、睡眠障害などの健康リスクが高まる恐れがあります」
千葉さんによると、いびきの中でも特に注意したいのが、習慣的で、かつガーガーと大きな音を立てていたり、呼吸が止まっていたりするケースだ。
「いびきは摩擦音ですから、大きな音を立てるいびきはそれだけ苦しい呼吸の力が大きいことを意味します。つまり、息苦しく、体に負担がかかるいびきであり、音が大きいほどSASの可能性が高いと考えていい。お酒を飲んだ日や疲れているときのみ起こるような、一過性のいびきとは区別する必要があります」
・音が大きい
・はたから見て苦しそう(時々呼吸が止まる)
・目覚めたときに口が渇いている、喉が痛い
・起床時や昼間の活動時間中に疲労感がある、眠くて仕方がない
このような症状がある場合には、いびきにより何らかの健康被害が生じる可能性が高い。医療機関を受診してSASかどうかの診断を受け、必要なら治療を受けたい。ただし、SASと診断されなくても、いびきは睡眠の質を低下させ、健康を害する可能性があるため、積極的にいびきの改善に取り組むべきだと千葉さんはアドバイスする。
[注1]緑内障のタイプの1つ。眼圧が上昇することで視神経が障害されて発症するタイプとは異なり、眼圧は正常にもかかわらず視神経が障害されて発症する。