現在、「オクトーバーフェスト」はカナダ、イギリス、シンガポールをはじめ日本でも「公認イベント」が開催されていますが、オリジナルの「オクトーバーフェスト」を運営しているミュンヘン市や関連団体には何の利益も還元されていません。ミュンヘン市は「新しい形の屋外イベント」という価値を創造したのに、そこからもうけを得ていないのです。利益を得ているのは、参加しているビール会社やソーセージ会社などです。

同じようなことが日本のすしにも言えるでしょう。現在、すしは世界中で最も人気を集める日本食の一つですが、日本が国としてすしの製法の特許をとって、そこから特許料をとってもうけることなど不可能です。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 「価値創造」と「価値獲得」の両方に成功した事例はありますか。

アルカーセル フランスのシャンパンです。シャンパンメーカーはフランス政府をうまく利用し、商標化とブランド化に成功しました。

ご存じかもしれませんが、同じスパークリングワインでもシャンパンと呼べるのは、フランスのシャンパーニュ地方で製造された製品だけです。ヨーロッパ内には同じような品質のスパークリングワインがありますが、スペインでは「カバ」、イタリアでは「プロセッコ」「スプマンテ」と呼ぶようになっています。モエ・エ・シャンドン、クリュッグ、ヴーヴ・クリコなどのメーカーは、法律と伝統をうまく利用することによって、シャンパンブランドの価値を向上させ、プレミアム商品として高い値段で売ることに成功したのです。

AKB48のグローバル展開も「価値創造」と「価値獲得」の両方を実現している事例だと思います。

佐藤 AKB48の運営会社は電通と組んで、フランチャイズ方式で海外に進出することにしました。つまり、フォーマットを輸出し、JKT48、BNK48など現地でアイドルグループをつくり、そこから利益を得るモデルです。なぜAKB48のビジネスモデルは、アジアで受け入れられたと思いますか。

ユニークなのは「体験型エンターテインメント」の要素

アルカーセル AKB48のビジネスモデルがユニークなのは、「体験型エンターテインメント」の要素が強いことです。これが他国の人々にとっては新鮮で魅力的なのです。

AKB48はどこにでもいるような普通の女の子をたくさん集めたグループです。そのコンセプトは「直接会いに行けるアイドル」。劇場に行けばかなりの至近距離で見ることができますし、CDを購入して握手券を手に入れれば、直接握手もできる。世界的にみてもこのようなアイドルは見たことがありません。

次に「メンバー同士を競争させる」という要素は、このグループに大きな付加価値をもたらしています。なぜなら、人前で「闘い」を見せるというのは、昔からある究極のエンターテインメントだからです。

古代ローマ時代、市民が政治に求めたのは「パンとサーカス」、つまり食料と娯楽でした。この時代の娯楽とは、競技場での戦車競争や、円形闘技場での剣闘士試合などを意味します。

世界的な人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」(米HBO)も登場人物間の生存競争を売りものにした物語です。なぜこのドラマがこれほど世界中で支持されているかといえば、視聴者は「自分の好きなキャラクターが次のエピソードにも生き残っているだろうか」「闘いを勝ち抜いて最後、鉄の玉座に座るのは誰だろうか」と気になって仕方がないからです。

人と人が争うのを見たい、誰が勝ち残るのかを見たい、というのは人間の普遍的な欲求だと思います。AKB48の運営会社はその心理をうまく利用したといえます。しかも「ゲーム・オブ・スローンズ」との違いは、CDを購入すれば、その競争に自分も参加できることです。つまり彼女たちの物語を形作る一員になれる。この仕組みがさらに体験型エンターテインメントの要素を強めています。

佐藤 JKT48、BNK48など、AKB48のフランチャイズグループがアジア市場で「価値創造」に成功したのはわかりました。「価値獲得」についてはどうでしょうか。十分、日本側に利益が還元されているのでしょうか。

次のページ
海外売り上げに限界あるビジネスモデル
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら