
都会の喧噪(けんそう)から離れ、身も心も清められる寺や神社。朝のお勤めや座禅、写経などが体験できる施設が人気だ。親子で宿坊体験ができる施設を、専門家に選んでもらった。
庭園望む部屋、朝は6時にお勤め

紀伊山地の一部で、町の至るところに寺社や宿坊が並ぶ高野山。その中でも60部屋と最大級の部屋数を誇るのが福智院の宿坊だ。館内には作庭家、重森三玲作の3つの庭園がある。「庭園を望める部屋に泊まれるのはぜいたく」(鵜飼秀徳さん)
「専用の写経室があり、未経験者や子供でも気兼ねなく参加できる」(山田祐子さん)。高野山に伝わる切り紙の「宝来」や、念珠作りなどの珍しい体験もできるほか、不動明王などの塗り絵も用意し、部屋でも楽しめる。毎朝6時からお勤めがあり、誰でも自由に参加できる。
高野山で唯一の天然温泉を引いており、家族風呂もある。「宿坊の多い高野山だけに精進料理が洗練されている」(柳沢美樹子さん)といい、高野豆腐や金山寺わさびなど高野山ならではの食材が味わえる。
館内には近世の甲冑(かっちゅう)などの宝物を展示するコーナーのほか、談話スペースがあり、飽きずに楽しめる仕掛けが満載。真言宗総本山の金剛峯寺も徒歩5分圏内だ。
(1)大人1人の宿泊料金(1泊2日、税込み) 1万3200円~(2人1室)(2)アクセス 南海電鉄高野山駅からバスで約10分。(3)公式サイト https://www.fukuchiin.com/
「禅コンシェルジュ」がサポート

永平寺の門前に7月にオープンした全18部屋の宿泊施設。永平寺が監修し、藤田観光グループが運営している。施設内には専門の試験に合格した「禅コンシェルジュ」が常駐し、禅に関する知識や体験をサポート。館内の道場で行う座禅体験では、姿勢や手の組み方などを丁寧に教えてくれる。「気軽に禅体験をしたい人におすすめ」(王麗華さん)。館内での体験のほか、永平寺での座禅や朝のお勤めにも参加できる。
精進料理は修行僧の食事をつくる「典座(てんぞ)」に直接指導された料理人がつくる。建物の骨組みは永平寺の敷地から切り出した杉が使われており、部屋の中は「越前焼や和紙など地元の伝統工芸品を使ったおもてなしあふれる空間」(坂原弘康さん)。部屋着の作務衣(さむえ)は子供向けのサイズも用意し、精進料理風の食べやすい子供メニューも用意する。
(1)1万9800円~(2)JR福井駅から京福バスの直行便で約30分(3)https://www.hakujukan-eiheiji.jp/
古くからの修行地、アウトドアも充実

古くから日本各地の修験者が集まってきた戸隠に今も残る宿坊の一つ。「戸隠神社への参拝は長い参道を歩くハイキングコースのようになっていて、親子で楽しめる」(堀内克彦さん)
夏の昆虫採集や冬の雪山散策など、アウトドアの支援も充実している。サービスの一環として、宿でガイドを手配したりスノーシューを貸し出したりしている。「冬こそ泊まりたい宿坊」(富本一幸さん)
おはらいのときに使う祝詞(のりと)を書き写す「筆写」、しめ縄などに付けて垂らす「紙垂(しで)」を作る体験ができる。体験を終えたら、お守りがもらえる。
料理には赤いジャガイモなどの珍しい野菜、信州サーモン、信州牛といった地元食材をふんだんに使う。「主人自ら打つ戸隠そばも絶品」(吉田さらささん)
貸し切り風呂は昨年リニューアルしたばかり。テラス付きの半露天風呂とジャグジー風呂がある。
(1)1万4190円~(2)JR長野駅からアルピコ交通のバスで約1時間(3)http://www.enmeiin-suwa.com/service4.html
国宝に隣接、地域と交流も

国宝、富貴寺大堂に隣接した宿。「地域住民が手伝い家庭的なふれあいがある。子供も安心して泊まれる」(柳沢さん)。富貴寺では朝のお勤めや座禅、写経、護摩祈願が体験できる。「こども一休さん」と称して小学生向けに写仏や座禅などを開催することもある。
料理には「ぶんご合鴨(あいがも)」など地元の食材を使用。手打ちの豊後高田そばが年中食べられる。子供向けに精進カレーやコロッケなど食べやすいメニューも。「温泉などの楽しみもあり、宿坊初心者にはありがたい」(山田さん)。
(1)1万1000円~(2人1室)(2)JR日豊線宇佐駅からタクシーで約30分(3)http://ryoanfukinotou.com/
檀信徒会館を一般開放

最澄が開いた延暦寺の檀信徒会館を、14年前に一般向けに開放した。ホテルのような建物で大浴場もあり「初めてでも気軽に利用できる」(村田和子さん)。座禅は簡単な言葉で説明し、写経では「口語に訳した、子供でも書き写しやすい経典を用意している」(柳沢さん)。
料理は約1時間半、鍋につきっきりで混ぜ続けるゴマ豆腐が名物。子供には大豆を使ったハンバーグなど食べやすい精進料理もある。喫茶室では「干支(えと)にちなんだ守り本尊の梵字(ぼんじ)がデザインされた『梵字ラテ』が人気」(坂原さん)。
(1)1万2200円~(2)JR湖西線大津京駅から送迎バス(予約制、無料)で約30分(3)http://syukubo.jp/
護摩修行、荘厳な雰囲気

6世紀に開かれた、信貴山(しぎさん)最古の寺。「瞑想(めいそう)や写経など寺ならではの体験」(堀内さん)が充実し、滝行や護摩修行など珍しいものも。「毎朝行う毘沙門護摩では荘厳な雰囲気を味わうことができる」(王さん)
食事は地元、奈良の食材を使った会席料理と精進料理のどちらかを選べる。江戸時代の作庭家、小堀遠州が造った庭園や、毘沙門天に縁のある虎の彫刻など、境内の散策も楽しい。「虎の形の御堂を参拝する『三寅の胎内くぐり』は子供にも人気」(坂原さん)。
(1)9000円~(2)JR王寺駅から奈良交通バスに乗車。「信貴大橋」で下車し徒歩約7分(3)http://www.senjyuin.or.jp/