伝説のFRB議長が鳴らす最後の警鐘 中銀の独立性問う訳者に聞く『ボルカー回顧録 健全な金融、良き政府を求めて』

『ボルカー回顧録 健全な金融、良き政府を求めて』ポール・A・ボルカー、クリスティン・ハーパー著 村井浩紀訳 (日本経済新聞出版社)
『ボルカー回顧録 健全な金融、良き政府を求めて』ポール・A・ボルカー、クリスティン・ハーパー著 村井浩紀訳 (日本経済新聞出版社)

ポール・ボルカー元米連邦準備理事会(FRB)議長はアメリカを代表する賢人のひとりである。世界を大きく揺さぶった2008年の金融危機後の制度改革の際には、ご意見番として担ぎ出され、「ボルカー・ルール」という厳しい規制が実現した。現在92歳のボルカー氏は著書『ボルカー回顧録:健全な金融、良き政府を求めて』(日本経済新聞出版社から日本語版が刊行された)で自らの「公僕」としての歩みを振り返りつつ、今、政策運営に取り組んでいる後輩たちに「良き政府」実現のために奮起を求めるメッセージを送っている。訳者である日本経済研究センターの村井浩紀エグゼクティブ・フェローに読みどころを語ってもらった。

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巨漢で知られるボルカー氏だが、本書の中では決して偉ぶっていない。若いころの自分はなすべき課題に直前まで取り組まない、先送り型の人間だったと繰り返し書くなど、むしろ小さく見せかけている。しかし学生時代にも、また社会に出てからも、恩師や上司に目をかけられ、引き上げられているあたりからは、ボルカー氏に対する評価は常に高く、周りから抜きんでた存在だったことがうかがえる。

財務省時代に頭角現す

30歳代から40歳代にかけては、財務省の副次官や次官として国際金融の前線を飛び回った。本書では触れていないが、実はこの財務省時代にジョンソン政権ではボルカー氏を「飛び級」でFRB議長に起用する構想まで浮上していた(2019年4月公開のFRBのオーラル・ヒストリーによる)。

横道にそれるが、翻訳の参考のためにと、ボルカー氏の人となりについて、彼を知る日本人に尋ねて回っていたら、大好きな京都訪問の折に住宅の梁に頭をぶつけ、血を流した話を聞いた。身長は2メートル1センチと確かに大きい。

アメリカの金融政策決定会合である連邦公開市場委員会(FOMC)で副議長を務めるニューヨーク地区連邦準備銀行総裁に就任したのはボルカー氏が47歳の時。そして51歳でFRB議長に就いた。FRB議長時代の功績として最も有名なのはインフレを力づく抑え込んだことだ。しかしその過程では失敗を犯し、FRB内での反逆に遭い、政権からの強力な圧力も受けた。筆の運びは抑制的だが、そのあたりをボルカー氏は包み隠さず記している。

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