イルカが言葉を覚えた! 音・モノ・文字の関連を理解東海大学 海洋学部 村山司(4)

村山さんとナックの出会いは90年代。最初は「言葉」の研究とは関係のない領域だった。

「1991年に水産庁からの依頼で実験をやったことがありました。流し網漁で使われる網に、いろいろな魚や海獣、海鳥が混獲されてしまうので、防止策を考えてくれっていうことで。じゃあ、イルカの視覚で流し網がどのくらい見えるのかという実験をするときに、初めて鴨川シーワールドでナックと一緒にやったんです。その頃は全然、ナックに言葉を教えるなんていうのは考えてなかったんです」

では、イルカと話すための本格的な研究に入りたいと思った時、なぜナックに白羽の矢が立ったのか。

「これは、場所の要因が大きかったですね。鴨川シーワールドのマリンシアターという大水槽にいるんですが、広くて、ガラス張りで、死角がない。動物からもこっちからも全部見えるから、この水槽で実験したいと思いました。その時たまたま、そこにいたのがナックだったというわけです」

結果的には、この決断は運命的でもあった。ナックは、非常に好奇心旺盛で、集中力があり、村山さんの実験に協力的だった。

村山さんがナックと一緒にまず行った研究は、「人工言語による名詞の命名」だ。

「まず、ナック語で物の名前を呼ばせると。人の言葉どおり言えればいいんですけど、声帯がない動物なので、それは無理だろうなと思ったもんですから、普段使ってるピーとかキューとかいう鳴き声で、それと物の名前を結びつけると。フィン、足ひれを見せたらピーって鳴いたら、エサをあげる。それからマスク、水中めがねを見せたら長い音でピィーーーって鳴いたら、エサをあげるってやって、それをだんだん繰り返して、これはピーって鳴いて、これはピィーーーって呼ぶんだよっていうのを教えていくというところをやって、それはだいたい成功したんですね」

マリンシアターの水槽の前で。

ナック語というのは、ナックにとって自然な鳴音から特徴的なものをピックアップして、物と対応づけたものだ。ナックの声と物とが結びつくことによって、初歩的な人工言語を作ったことになる。村山さんも「もしかしたら、ナックとしては全然別の意味で鳴いてる音を、こっちで無理やり、これはフィンで、これはマスクでって決めつけちゃってるかもしれないです」と言っていたけれど、ナックはこの段階を難なくクリアした。

「最初は、モノを見せて、ナック語で言ってもらったわけですが、逆もできます。スピーカーからピーとか、ビューとか音出して、フィンとかマスクとかを選ばせるってことです。ここでしっかり音と物の名前が結びついてるということだと思うんですね」

この人工言語に導入されて、ナック語で名付けられたのは、フィンと、マスク、バケツ、長靴の4つ。たった4つかと思われるかもしれないが、最初はこういうものだ。人間の赤ちゃんだって、まず「ママ」だとか「マンマ」だとか、なにかの名を呼び始める。

「じゃあ、次はなにかというと、文字だろうと。実は今から思うと、『三段論法』の実験をやるときに、フィンを見せたらアルファベットの⊥だとか、マスクを見せたらRだっていうのを最初教えました。あれが既に記号と物との名前を結びつけるということの始まりだったんですね。それを、もう1回やってみたんですね。それでもできて、フィンはこの文字、マスクはこの文字、というのもちゃんとできました。これで物の名前と、音で物を呼ぶことと、記号で物を表せたということで、今そこまでいったということになりますね」

4種類のモノに4つの音と文字を対応させた。見間違えを防ぐため、TとVは角度を変えている。

ナックは、声と文字をフィンやマスクなどのモノと対応させることに成功した。音とモノ、文字とモノ、音と文字、すべての組み合わせで、関連を理解している。

では、次は?

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