メルセデス・ベンツのエントリーモデル「Aクラス」に、オーセンティックないでたちの「セダン」が登場。FFベースならではの高効率なパッケージを持つニューモデルは、FRセダン「Cクラス」に迫る実力の持ち主だった。
逆境下で登場した新コンパクトセダン
セダン受難の時代である。フォードが北米市場でセダン販売から撤退すると発表したのは昨年(2018年)の4月。日本ではトヨタの「マークX」が今年いっぱいで生産終了する。「プレミオ/アリオン」も来年でお別れとなりそうだ。SUV人気が加速し、伝統的な車型のセダンは生息領域が急速に狭まっている。だから、このタイミングでの新型セダンの登場には驚きがあった。
メルセデス・ベンツAクラス セダンは、簡単に言えばハッチバックのAクラスを3ボックス化したモデルだ。全長は130mm延ばされているが、ホイールベースは変わらない。ニッチな場所にニューモデルを投入したのは、メルセデスのコンパクトセダンを求めるユーザーが一定数いるという判断なのだろう。日本では、国産セダンが苦戦するのと対照的に、ラージサイズの輸入プレミアムセダンは堅調な売れ行きを示している。オーセンティックな車型の輸入車は好きだが大きなサイズはいらないという層に、Aクラス セダンは歓迎されるかもしれない。
メルセデス・ベンツには「Cクラス セダン」がある。Aクラスと比べればひとまわり大きいものの、輸入車の中ではどうにかコンパクトセダンと呼べるサイズだ。どっちにしようか迷う人もいるのではないか。Cクラスのほうが100万円ほど高いが、エンジンの大小を気にしないのであれば、価格帯は微妙に重なってくる。
FRのCクラスに対し、AクラスはFFである。かつてはFRこそが高級車の証しとされていたものだが、最近ではそういった価値観は絶対のものではなくなった。自分のクルマの駆動方式なんて知らないというユーザーだっている。FFのほうがボディーサイズに対して室内空間を広くしやすいというメリットもある。Cより安くてパッケージに優れるならAを選ぼうと考えたとしても不思議ではない。


自然なセダンのフォルム
試乗したのは「A250 4MATIC」。AMG版を除けば最上級グレードだ。「A180セダン」と「A180スタイル セダン」のデリバリーは2019年末からになるという。2リッター直列4気筒ターボエンジンは最高出力224PS(165kW)、最大トルク350N・m。7段デュアルクラッチトランスミッションと、前項でさんざんFFだFRだと言っておいてなんだが、可変トルク配分型の四輪駆動システム「4MATIC」が与えられる。
エクステリアデザインはハッチバック版Aクラスと同様にシンプルでクリーンだ。煩雑なキャラクターラインを排し、ツルンとした印象になっている。メルセデスに限らず、こういう方向性がトレンドなのだ。フロントマスクはおなじみになったツイン台形グリルとツリ目の組み合わせ。どこかラグビー日本代表の稲垣啓太選手を思わせる顔つきだ。
サイドビューはしっかりとセダンで、ハッチバックに後付けでトランクを追加したというような不自然さはない。当然ながら、開発初期から並行してデザインが進められていたのだろう。スポーティーさとコンサバな感じがうまくバランスしたフォルムである。FRのCクラス セダンと比べても、極端にフロントオーバーハングが長くなっているようなことはない。
インテリアはハッチバック版と基本的に同じ。目の前にはメーターとインフォテインメント用のスクリーンが組み合わされた超横長のモニターが広がる。エアコンアウトレットは対照的にタービン型のデコラティブなデザインを採用しているが、フラットな形状で統一してしまうとモダンになりすぎて重厚感が損なわれるのかもしれない。ダッシュボード上面に凹凸はなく、全体的に水平基調が貫かれている。スタイリッシュなのはいいのだが、ハザードランプのスイッチが小さくて見つけられなかった時は少し焦った。

