動画やSNSの活用で変える 職場のマニュアル再生術『「マニュアル」をナメるな!』 中田亨氏

既存のマニュアルにチーム全員で手を加え、磨きをかけるのは、生産性アップに貢献する取り組みだ。中田氏は「最も手っ取り早く効果が出せる働き方改革」とみる。企業側が追加書き込みやマニュアル編集に何らかの人事考課や報酬を用意すれば、さらにインセンティブが働く。マニュアル改善を業務として位置づけるのも、ブラッシュアップを勢いづかせる。「良質なノウハウ提供者を表彰するようなしくみは、チーム全体のパフォーマンス向上を促す」という。

文書をこしらえるだけではなく、賢く運用するのも、マニュアルを生かすうえで大事なポイントだ。現場で起きがちなのは、「マニュアルに書かれている仕事以外はしない(してはいけない)」という、しゃくし定規な働き方だという。気働きの余地を減らし、いわゆる「お役所仕事」のような、最低限の労働で済ませようとする姿勢は「商品・サービスの低下につながりやすく、勤め先に利益をもたらしにくい」。商品・サービスの向上を通して、勤め先に利益をもたらすという、本来の目的を優先して、マニュアル運用に「体温」を持たせる必要がある。

引き継ぎが見直しのタイミング

会議の議事録を残す習慣が根付き、「マニュアルに使える文字データは増える傾向にある」という。スマートフォンを介したメッセージのやりとりも、ちょっと編集を加えれば、マニュアルの下地になり得る。中田氏が強力なツールと認めるのは、スマホの動画撮影機能だ。文字の説明を省きやすいのに加え、「動画は直感的な理解を助ける」。音声を文字に変換するソフトも性能が向上していて、「文章を書き慣れない人も、しゃべるだけで文字化しやすくなった」(中田氏)。チーム内で共有する場合には、SNSやチャットが便利だ。

日ごろは求められないせいか、引き継ぎのようなタイミングを迎えないとマニュアルをつくらない傾向がある。しかし、中田氏は「マニュアルをまとめる行為は業務の質を高める効果が大きい」と、日常的なマニュアルづくりをすすめる。目先の業務に追われて、なかなか思いを巡らす機会のない「自分の本来業務は何か」「必須のスキルとは」「改善すべきポイントは」などの問題意識を深掘りする、絶好のチャンスになるからだ。

他人に教えられないノウハウは、実は自分でもよく分かっていないものだ。マニュアルの形で文書化を試みると、自分の理解度にも気づきやすくなる。業務ノウハウを切り分ける思考は、チームでの分担や、社外への委託、ロボット・人工知能(AI)の活用など、業務スキームを見直すきっかけにもなりそうだ。業務を他者に譲り渡せる形に整えるにあたっても、マニュアルの出来が物を言う。チーム内での分業、社外チームとの協業、AIの活用などが求められる今、マニュアルは新たな価値を帯びつつあるようだ。

中田亨
工学博士。国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター NEC-産総研人工知能連携研究室 副連携室長。1972年神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。中央大学大学院理工学研究科客員教授。人間のミスと安全に関する研究を、現場主義で進めている。著書に『「事務ミス」をナメるな!』『防げ! 現場のヒューマンエラー』『情報漏洩 9割はあなたのうっかりミス』など。

「マニュアル」をナメるな! 職場のミスの本当の原因 (光文社新書)

著者 : 中田 亨
出版 : 光文社
価格 : 858円 (税込み)

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