全国にある江戸情緒を体感できる宿場町。木造の家並みは、旅情を誘う。訪ねてみたい風情あふれる宿場町を専門家が選んだ。
ノスタルジックな雰囲気味わう

江戸と京都を結ぶ中山道にある妻籠(つまご)宿は、全国に先駆けて地元住民が古い町並みの保存運動に取り組み、1976年に宿場町としては初めて国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。江戸時代から残る家屋が点在し、「タイムトリップ感を存分に味わえる」(有金淳さん)。中山道の一部で山深い木曽路の秋は、低い雲が垂れ込め幻想的な装いになる。「常夜灯や水場が宿場の面影をしのばせ、古い町並みを保存した宿場町観光の代表的存在」(小塩稲之さん)
建物の中は別の魅力がある。殿様らが泊まる国の重要文化財である脇本陣奥谷の囲炉裏には、日差し次第で青い斜光が注ぐ(写真)。「レトロなカフェもありノスタルジックな雰囲気を味わえる」(沼田阿友美さん)。古い家並みに平行して蘭(あららぎ)川が流れ「尾又橋から眺める川の景色も美しくおすすめ」(水津陽子さん)
妻籠を愛する会の藤原義則理事長は「観光客全体の6割を占める外国人のうち、欧米系が8割弱。特に木曽路を歩く人が急増しているので、シャワーなどの施設を充実させておもてなしを強化したい」と話す。
(1)最寄り駅 JR南木曽駅からバスで約10分(2)情報サイト http://www.tumago.jp/
かやぶき屋根 整然と

会津の若松城下と日光を結ぶ下野(しもつけ)街道(会津西街道)の宿場として栄えた。山の中の盆地に47軒のかやぶき屋根の家が整然と並び、広い道の両側に水路が流れる。店を兼ねた家は住民の住まいでもある。「400年以上もかやぶき屋根を継承する地元の努力は素晴らしい」(有金さん)。トタン屋根への改築が進んだ時期もあったが、再び住民が「トタンからかやぶきへと少しずつ戻した」(大内宿観光協会の佐藤久夫会長)という。
「見晴らし台からの宿場町の全景や、長ネギで食べる名物のネギそばなど写真が映える魅力にあふれている」(千葉千枝子さん)。「鉄道でのんびり行くと江戸時代へのタイムスリップ感をより楽しめる」(井上幸一さん)
屋根のふき替えは住民だけで行う。佐藤会長は「明治以降、道路と鉄道が整備されて陸の孤島になった。近代化に取り残されたことが幸いして住民の保存運動の意識が高まった」と話す。観光客は2011年の東日本大震災前のピーク時からようやく年間80万人と3分の2まで戻った。「雪景色に染まり別の顔を見せる冬にも訪れたい」(立川弘樹さん)
(1)会津鉄道湯野上温泉駅からバスで約20分(2)http://ouchi-juku.com/
坂下る水音 心地よく

中山道にある馬籠(まごめ)宿は「木曽路はすべて山の中である」と小説「夜明け前」で書いた、島崎藤村の出生地。坂道に肩を寄せ合うように立つ家並みの中に「藤村記念館」がある。「妻籠宿までの約9キロの木曽路の山道はハイキングコースとして最適」(横倉和子さん)。この道を歩くと小説の書き出しが実感できる。
「石畳の坂道や水車小屋など、どこを取っても絵になる場所が点在し、往時の雰囲気が残る」(立川さん)。道の両側には水路があり、坂を下る水音も心地よい。「敵の侵入を防ぐために道を直角に曲げた桝(ます)形の先にある、馬籠のシンボルの大きな水車の音を聞けば、一気に江戸の宿場に紛れ込んだ非日常感に包まれる」(水津さん)
景観だけでなく「名物の五平餅や絶品の栗スイーツ巡りも楽しい」(山野井友紀さん)。馬籠観光協会の大脇和人会長は「11月からは馬籠宿場まつりでもみじのライトアップ、道を灯籠で照らすあかり街道など、夜の別の表情も楽しんでもらえる」。
(1)JR中津川駅からバスで約25分(2)http://www.kiso-magome.com/kankou.html
グルメや工芸品選びも楽しく

中山道の真ん中に位置し、かつて木曽路で一番にぎわった宿場で「奈良井千軒」とも呼ばれた。「ぬくもり感のある軒が約1キロも連なる眺めは感動的」(中尾隆之さん)。NHKの連続テレビ小説「おひさま」の舞台にもなった。「建物の黒と山の緑、冬は雪の白とのコントラストが見事」(有金さん)
「アクセスが抜群に良く、駅前からすぐに見応えのある重要伝統的建造物群保存地区があるのは珍しい」(山野井さん)。お焼きやそばなど信州グルメを味わえる店や工芸品を扱う店も多い。「ここでしか出合えない漆器や木工品のショッピングも楽しめる」(千葉さん)
(1)JR奈良井駅下車(2)https://www.naraijuku.com/
家屋200棟以上 雰囲気日本一

東海道五十三次の47番目で、東海道の宿場町として唯一ランクインした。東西約1.8キロにわたって200棟以上の古い家屋が残り「規模と江戸情緒の雰囲気は日本一」(中尾さん)。「落ち着いた雰囲気のある宿場町で、丸みを帯びた趣のある起(むく)り屋根を見て回るのも楽しい」(立川さん)。淡い光に照らされた夜景も趣がある。
参勤交代や伊勢参りでにぎわった。日本の道百選でもある。「江戸から続く貴重な町並みと自然の景観に癒やされる」(横倉さん)。亀山市には亀山宿、坂下宿も。「宿場町を眺めながら東海道を歩くのも楽しい」(井上さん)
(1)JR関駅から徒歩10分(2)http://kameyama-kanko.com/category/area/seki/