女性リーダーを育てろ 地方企業、変わる働き方
大都市に比べて活躍する女性のロールモデルが少ない、若い人材の獲得が難しい――地方が抱えるハンディを乗り越えて女性活躍を推進する企業がある。共通するのは、新しい企業風土への変革や場所や時間を選べる柔軟な働き方をトップ主導で取り入れていることだ。社長の思いと取り組みを聞いた。
新日本科学(鹿児島) 社長が先導、朝礼で啓発
医薬品開発を受託研究する新日本科学は女性社員が503人と約半数を占め、管理職比率は11年前の7.3%から19年は19.5%に上昇した。永田良一会長兼社長(61)は「本拠地の鹿児島では、男性は大学を卒業すると東京や大阪などで就職する。ならば優秀な女性に長く働いてもらえる環境をつくろう」と考えた。
中途入社でシステムに詳しい長利京美上席執行役員(53)を女性活躍担当に任命した。14年に女性12人で「働くなでしこ委員会」を立ち上げた。「学校行事で1日休むのはもったいない」といった声を吸い上げ、永田社長に改善案を示した。それを受けて、2時間単位の有給休暇を導入した。
3児の母で安全性研究所品質管理室長の西ゆかりさん(43)はPTAの会合や子どもの病気で年に10回ほど、2時間の有給休暇を取る。「制度があると安心して休める」
女性幹部も育てる。社長が講師の「永田塾」を毎週のように開く。20代後半から30代の予科生と40歳前後の塾生が財務会計を学び、合宿に参加する。女性参加者の比率は5年前の14.3%から19年は41.7%に高まった。
「女性の活躍を阻むあらゆるものを会社から取り除く。女性社員の声を聞き、改善するのが私の仕事だ」。毎週の朝礼でも社員に思いを語る。約20年間関わった米国で目の当たりにした、男女とも活躍して当たり前の企業風土づくりに心を砕く永田社長。「日本で一番、女性が活躍できる企業にしたい」と強調する。
朝倉染布(群馬) 「男職場」の思い込み消す
朝倉染布(せんぷ)は水着などスポーツウエアを染色する。6代目の朝倉剛太郎社長(49)は「女性がやる気と能力を十分発揮できるように環境を整えるのが経営者の務めだ」と話す。
従業員98人中女性は38人で、平均勤続年数は男性を1年半上回る。03年以降に出産した女性全員が育児休業後に職場復帰し、女性リーダーも5人に増えた。
染色課の小倉真奈美さん(21)は機械を操作して長さ約500メートルの生地を約4~6時間染める。ぬれて重い布を取り出してワゴンに乗せ、電動牽引(けんいん)車で作業場に運ぶ。ワゴンは重量500キロを超えるが、小倉さんは「興味があった仕事。慣れれば大丈夫」と笑う。創業来、男性中心の仕事を「女性もできると示せた」と大塚博美総務部長は話す。現場の雰囲気も改善した。「手伝う余裕などない」と言っていた男性社員らが、重たい染料や薬品を運ぶ小倉さんを手伝うようになった。
リーピー(岐阜) 働く時間、社員自ら決定
「全国から優秀な人材を集めるには、子どもを安心して育てられる職場環境が欠かせない」と語るのは、ウェブサイト制作のリーピー(岐阜市)の川口聡社長(35)だ。短い通勤時間もその一つ。18年1月、名古屋市に支社を設けた。
波多野圭映さん(22)は通勤時間が岐阜までの片道約2時間から50分に短縮し「仕事帰りのショッピングも可能になった」。本社とはテレビ会議でつながる。
顧客との連絡は、全社員が把握できるように共通のメールアドレスに集約する。各社員の仕事の進捗は15分単位で全員に「見える化」し、納期に遅れそうなら協力する。「カイゼン・チーム」を10月に設け、業務のムダ削減を加速する。
働く時間は社員が選び、コアタイムもない。欠勤連絡はLINEでOK。男性社員には10日の育児休業の取得を義務付ける。川口社長は「人材獲得が難しいというハンディを克服し、ウェブで地方を面白くする」と力を込める。
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普通に休み取れる環境を ~取材を終えて~
女性活躍は経営トップが社員に語り続けて、制度を常に見直さなければ浸透しない。スキルを磨いた社員が結婚や出産、育児で退職するのは組織にとって大きな損失だ。また育児休業期間をカバーする社員の負担が重くなって不満が募ったり、取得を気兼ねしたりするような雰囲気も断たねばならない。
依然として子育てや家事の負担は女性にかかりやすい。仕事と両立しやすい制度や仕組みを整えなければ、知見と経験を積んだ人材が男女平等に登用されないままだ。記者は24年前、子どもの誕生時に早帰りや遅い出勤を認めてもらったことがある。男女問わず誰もが普通に育休がとれ、柔軟な働き方ができる。そんな社会が早く実現してほしい。
(近藤英次)
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