アーツカウンシルは根付くか 文化支援、専門家が判断

アーツカウンシル新潟の支援を受け、音楽療法士と演奏家が施設を訪問(新潟市)
アーツカウンシル新潟の支援を受け、音楽療法士と演奏家が施設を訪問(新潟市)

文化や芸術にかかわる事業を支援する組織、アーツカウンシルが全国に広がってきました。政府は2020年の東京五輪・パラリンピックを機に、スポーツ振興と同時にアーツカウンシルの活動を活発にしたいと考えています。

アーツカウンシルは文化・芸術の環境整備に携わる専門家らによる第三者機関を指し、公的な資金を提供する文化・芸術事業を審査・決定します。発祥の地は英国です。政治家や行政官ではない、イベントを調整する専門家らが判断する点がポイントで、支援先の活動をフォローし、成果を評価する役割も担います。ドイツのナチスなどが文化や芸術を政治利用した反省から生まれました。

この関連で議論を呼んだのが、愛知県で開催された国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」です。文化庁は9月、同芸術祭に交付する予定だった補助金を不交付としました。特定の展示作品が「反日的だ」などと抗議を受けて企画展がいったん中止となった後、文化庁は「愛知県の申請手続きが不適当だった」と不交付を決めました。

しかし、この補助金は、外部の有識者による審査会が採択した案件です。立教大学の若林朋子特任准教授は「文化庁は個々の案件を十分にフォローしておらず、今回は問題が起きたから介入した。これを機に審査のやり方を見直し、手順を明確にすべきだ」と主張します。

英国では12年のロンドン五輪開催までの4年間でスポーツ、文化、芸術を同時に振興する「文化プログラム」を組み、各地のアーツカウンシルがプログラムを支援しました。日本では東京都や沖縄県、浜松市など10を超える地域で活動しています。

草分けは横浜市です。公益財団法人の横浜市芸術文化振興財団は07年から横浜市と協力し、「アーツコミッション・ヨコハマ」という名称の事業を展開中です。アーティストらとの相談・調整、創作活動や事務所開設への助成、情報発信が事業の柱です。07年度から10年間で相談は1449件、創作活動や事務所開設への支援・助成は226件にのぼりました。19年度の助成金は総額1450万円です。

プログラム・オフィサーの杉崎栄介氏は「文化・芸術活動は社会のインフラだからこそ、公的な資金による文化政策が必要になる。アーティストと行政とを仲介する仕事は一層大切になる」とみています。ただ、仲介役になれる人材が現状では足りないのが実情です。アーツカウンシル新潟の杉浦幹男氏は「アーツカウンシルのネットワークをさらに広げるには、長期的な視点で人材を育成する仕組みが欠かせない」と強調します。

杉浦幹男・アーツカウンシル新潟/みやざきプログラムディレクター「日常の場面で文化・芸術に触れる機会を」

文化や芸術にかかわる事業に携わる個人や団体を支援する第三者機関、アーツカウンシルは日本に根付くのでしょうか。宮崎県と新潟市のアーツカウンシルでプログラムディレクターを務める杉浦幹男氏に、組織の現状や目的を聞きました。

――日本のアーツカウンシルの現状はどうですか。

杉浦幹男・アーツカウンシル新潟/みやざきプログラムディレクター

「2007年に発足した横浜市の『アーツコミッション・ヨコハマ』が日本初の組織で、公益財団法人・横浜市芸術文化振興財団が運営する事業の位置づけです。横浜市は『文化芸術創造都市』を目指しており、アーツカウンシルの設立もその一環といえます。続いて沖縄県、東京都にも発足し、徐々に全国に広がってきています。文化庁は16~18年度、各地のアーツカウンシルの事業資金の一部を負担する予算措置を講じ、設立を促してきました」

――アーツカウンシルの役割と目的は。

「アーツカウンシルのメンバーは自らの知見を生かし、芸術や文化に詳しい外部の審査委員らの協力を得ながら助成金の対象を選定し、成果を評価します。地域の文化政策について調査・研究するシンクタンクとしての役割もあります。支援団体への助言や団体同士のマッチング、国や自治体との調整・政策提言といった幅広い機能が求められます」

「地域の中で新しい価値を見つけ、地域の中で生きていく道筋を示すのがアーツカウンシルの目標だと思っています。各地で文化・芸術活動を振興し、『東京に追いつき追い越せでは幸せになれない』と多くの人が認識する地域になるのを手助けするのが理想です」

――アーツカウンシルを構成するのはどんなメンバーですか。

「例えば、16年に発足したアーツカウンシル新潟のメンバーは、私がプログラムディレクターで、プログラムオフィサーが5人、事務スタッフ1人の7人です。舞踊や音楽、公共施設の運営といった分野の経験があり、文化政策にも詳しい人間が集まっています」

――具体的な取り組み事例を教えてください。

「新潟県音楽療法士協会による、音楽を活用したソーシャルインクルージョン(社会包摂)の取り組みを支援しています。8~9月、音楽療法士とプロの演奏家が高齢者の施設などを訪問し、即興演奏や音楽によるコミュニケーションを試みました。これ以外にもデザインや神楽などの団体を支援しています」

――12年のロンドン五輪では、アーツカウンシルの活動が文化・芸術活動の振興に大きく貢献したと評価されています。

「ソーシャルインクルージョンという概念のもと、障害者や高齢者、外国人ら幅広い人々が参加できる文化プログラムを実行しました。社会に参加しづらい人々が、文化・芸術活動を通じて社会に参加するきっかけをつくり、成果を上げました。劇場やミュージアムを建設するのではなく、日常の場面で文化・芸術に触れる機会を増やしたのです」

――アーツカウンシルの意図とは裏腹に、東京五輪は東京への一極集中を加速させませんか。

「東京に人が集まり、地方との経済格差が広がる面は確かにありますが、東京の限界が見えてくる面もあります。五輪後は東京での経済の盛り上がりは一気にしぼむ可能性が高く、各地域の文化や芸術が力を発揮するのではないでしょうか」

(編集委員 前田裕之)