「私たちは、まだS木さんが言うように半人前だと思う。M原さんの意識の高さはすごいと思うけれど、まずは与えられた仕事をしっかりとこなせるようになることが大事じゃない?」

M原は、「K田さんは、意識が低いよね」などと言って、今度はK田を“ディスり”だした。K田はムッとして、「とにかく、S木さんに謝った方がいいと思うよ」と言うと、カフェを出た。

与えられた仕事を放棄し、勝手に顧客の数字分析

次の日からM原は、S木が与える仕事について、今まで以上にえり好みをしだした。新人が担当する入力業務やファイリングなどをK田に押し付けて、勝手に顧客の数字分析などをし始めた。また、他の先輩から依頼される仕事についても、打ち合わせの同行で記録を取るなどは積極的に受けるが、地味で単純な作業となると、「自分はもっと成長できる仕事に集中したい」などと言って拒否する。S木は何度もM原に注意をしたり助言をしたりと、何とか改善されるように関わっていたが、M原は全く聞き入れようとしなかった。

ある日、M原が突然S木に、

「転職するので、今週いっぱいで退職します」

と言ってきた。何でも、SNSで知り合いになった社長の経営するベンチャー企業に移るとのことだった。

M原は、転職先は経営者も30代で、若手が成長できる環境だから楽しみだと浮かれていた。S木もK田も他の職員も、突然のことに驚いたが、内心ほっとした。M原は仕事をえり好みする上に、勝手なことをしてミスをしたり、知識も経験もないくせに顧客に偉そうに指導するので、クレームも多発していたのだ。

同期が退職して、新人1人になったK田だが、S木の熱心な指導でどんどん成長していった。自身も、一生懸命仕事に取り組むうちに、だんだんと面白さが分かってきて、もっと成長したいと自ら税理士資格を取る学校にも通い始めた。

一方、転職したM原については、しばらく音信不通だったが、K田が久しぶりにSNSでM原の投稿を目にすると、転職先のベンチャー企業もすでに退職したようだ。どうやら次は投資家を目指すため、海外の投資家に会いに行くらしい。

意識高い系部下の活かし方

M原のように、いわゆる「意識高い系」の人の中には、理想の自分と世間から見た自分とのギャップに気づかず、やたら「自分はすごいのだ」「誰かに認めてほしい」という承認欲求が強い人がいる。こういった人が部下になると、M原のように仕事のえり好みをしたり、承認されないと周囲をバカにしたりすることもあり、上司としては非常に扱いにくい。

しかし、一方で、自分が納得したことに対しては、努力を惜しまないという一面もある。本人の意識が高いところはしっかりと承認してあげて、相手との信頼関係を事前に作っておくことが必要だ。その上で、1つひとつの仕事の意味づけを伝え、相手の成長意欲をいい方向に持っていけると、案外大化けすることもある。

モンスター部下の短所は長所にもなり得るのだ。

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石川弘子
1973年福島県生まれ。青山学院大学経済学部卒業。フェリタス社会保険労務士法人代表。一般企業に勤務するかたわら、2003年に社会保険労務士資格取得、04年独立。産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格も保有し、中小企業から上場企業までさまざまな企業の労務相談を受けるほか、企業のメンタルヘルス対策などにも携わる。著書に『あなたの隣のモンスター社員』。

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