フランスワインの味が変わる? 収穫記録に映る温暖化

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/10/19

そこでラベ氏らは、ボーヌの詳細な記録をまとめてみることにした。最初期のデータとしては、ボーヌのノートルダム教会から、羊皮紙を束ねた1300年代の記録簿が見つかった。この教会では、ささやかな土地でブドウを育ててワインを作っており、そのできがあまりにもすばらしかったために、彼らはこれを王と取引のある商人に売っていた。

教会では毎年、ブドウの収穫作業をする人々を畑に送り出した日付を、律儀に記録していた。研究者らは、細かい文字で記されたラテン語の文を読み進めながら、1年ごとの収穫日を書き出していった。後半のデータは、研究者らが市議会の議事録や新聞のアーカイブを丁寧に読み込んで収集した。これらを組み合わせることにより、1354年から2018年まで、ほぼ途切れなく続くブドウ収穫日の記録が完成した。

そこから見えてきたのは、気候変動を明確に示す証拠だった。記録を見ると、中世以降、短い温暖な時期が幾度も繰り返され、時おり1540年のような非常に暑い年があったことがわかる。しかし1980年代以降は、温暖な時期が徐々に長くなっていく。最近の16年だけを見ても、突出して収穫が早かった年が8回も集中している。

これは、地元のワイン生産者の実体験とも一致する。ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティの共同所有者で1965年からワインづくりに携わってきたオベール・ド・ヴィレーヌ氏は、「わたしたちワイン生産者は、気候に何が起こっているかを最前線で見ています。今ほど気候が不安定になることは、これまで一度もありませんでした」と語る。

ナタリー・ウダン氏は、家族が何十年も前から所有しているブドウ畑でシャルドネを作っている。かつて収穫作業は、彼女の父親の誕生日である9月28日前後に行われたものだった。しかし今では、父親の誕生日パーティまでに収穫はすっかり終わり、片付けまで済んでいる。これは、彼女の祖父がその昔ワインづくりをしていた時期よりも、2~3週間早い。

ブルゴーニュでは、数十年前と比べて、シャルドネ種の収穫日が数週間早くなっている。(PHOTOGRAPH BY IAN SHAW/GETTY)

糖度が増し、酸味が低く

今のところ、高い気温はブルゴーニュのワイン農家に打撃を与えてはいない。むしろここ数年の暑さは、近年でも特に優れたビンテージを生み出してくれたと、ド・ヴィレーヌ氏は言う。フランス全土を熱波が襲い、気温が38℃を大きく超えた今年でさえ、高い丘と高緯度のおかげで、ブルゴーニュは生き延びることができた。

ずっと南の土地では、暑さの影響はさらに厳しくなる。今年の夏、フランス南西部の街では、ブドウの葉がつたについたまま枯れ、果実は強いストレスのためにしなびてしまった。

ブルゴーニュはまだそこまでの暑さに見舞われていないが、おそらくは時間の問題だと、フランス国立農学研究所のワイン科学者、ジャン=マルク・トウザル氏は言う。

「未来の収穫日をシミュレーションすると、2050年にはフランスのワイン生産地の大半で、夏の盛りである8月15日前後に収穫が行われることになるでしょう」

そうなれば、ワインの味や口当たり、アルコール度数の強さへの影響はほぼ確実に避けられない。気温が世界中で上昇する中、1970年代には12パーセントだったワインのアルコール度数は、産地によってばらつきはあるものの、すでに14パーセントまで上昇している。

これはひとつにはワイン生産者の好みによるものだが、もうひとつの理由はブドウが暑さのせいで早く熟すことだと、米リンフィールド大学でブドウ栽培を研究するグレッグ・ジョーンズ氏は言う。ブドウの糖度が高くなるほど、ワインのアルコール度数が高くなるからだ。

ウダン氏は言う。「もし気温が大きく上昇すれば、糖度が増し、酸味が低くなります。ブルゴーニュでは、重たく、糖度の高い、過熟なシャルドネは好まれません。フレッシュなものが求められているのです。夏が暑くなるほど、これは難しくなります」

ブルゴーニュの名産であるピノ・ノワールやシャルドネは、今のところは無事だ。しかし将来的には、安心できる状態ではまったくない。

「わたしたちは毎日、土を扱っています。土を適切に保ち、心を込めて世話をし、ワイン作りのためにできる限りのことをします。しかしわたしたちのワインの一部である気候は、コントロールすることができません。ほかのすべてを完璧に準備したとしても、気候だけは変えられないのです」

(文 ALEJANDRA BORUNDA、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年10月3日付]

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