大企業イノベーションが日本の源泉 ハーバードの視点ハーバードビジネススクール教授 ラマナ・ナンダ氏(下)

実証実験用の衛星模型を前に語る岡田光信アストロスケールCEO
実証実験用の衛星模型を前に語る岡田光信アストロスケールCEO

世界トップクラスの経営大学院、ハーバードビジネススクール。その教材には、日本企業の事例が数多く登場する。取り上げられた企業も、グローバル企業からベンチャー企業、エンターテインメントビジネスまで幅広い。日本企業のどこが注目されているのか。作家・コンサルタントの佐藤智恵氏によるハーバードビジネススクール教授陣へのインタビューをシリーズで掲載する。日本人起業家が設立した宇宙ベンチャー、アストロスケールに関心を寄せるラマナ・ナンダ教授は、投資家心理や日本の起業環境にも鋭い視線を投げる。

<<(上)宇宙の掃除に金が集まる ハーバード注目の日本発VB

佐藤 スペースデブリ(宇宙ごみ)除去サービスの開発に取り組むベンチャー企業、アストロスケールはシリーズD(成長期段階の資金調達ラウンド)で累計1億200万ドル(110億円)の調達に成功しています。創業からずっと売り上げゼロが続いているのに、なぜベンチャー投資家はこぞってアストロスケールに投資しているのですか。

ハーバードビジネススクール教授 ラマナ・ナンダ氏

ナンダ ベンチャー投資家は常に大きなリターンを狙っています。そのためならば、大きなリスクをとることもいといません。市場と需要を冷静に分析し「将来大きなリターンが見込める」と考えているからこそ、アストロスケールに投資しているのです。

宇宙ごみ除去市場で高シェア得る可能性

2019年現在、地球のまわりには5000個の人工衛星と、2万2300個のスペースデブリ(宇宙ごみ)があるといわれていますが、衛星の製造費や打ち上げ費が安くなるにつれて、その数はどんどん増え続けています。最近では、総額500万ドルで打ち上げた企業もあるぐらいです。このままでは、ケスラーシンドローム(デブリ同士や人工衛星とデブリとの衝突が爆発的に増える現象)が起こり、ロケットや衛星の打ち上げが困難になることが想定されています。5~10年以内に、誰かがこの問題を解決しないと、国も企業も宇宙事業を推進できなくなってしまうのです。

今、人工衛星は、通信、航空、軍事、農業などの分野で幅広く使われていて、世界の人々にとってなくてはならないものです。自動運転車の時代になれば、さらに重要になるでしょう。衛星を打ち上げたい事業者は増えるばかり。しかし、宇宙ごみがある限り、打ち上げられない。となると、誰がそのごみを除去するか。現在、具体的な解決策を提案しているのはアストロスケールを含めても数社でしょう。となるとアストロスケールがこの事業で大きなシェアを得られる可能性が高い。ベンチャー投資家は、「アストロスケールが数年後、宇宙ごみを回収する技術を確立してくれたら、大きなリターンが得られるだろう」と期待しながら、少しずつ出資しているわけです。

また既存の大手の衛星事業者から、「故障した衛星を軌道離脱させてほしい」という依頼も増えてくることが予測されています。たとえば、軌道上に100基、衛星があったとして、そのうち5つが故障したとしましょう。新たに衛星を打ち上げるには、その5つを軌道上から離脱させなければなりません。ところが、実際には軌道離脱せずにそのまま放置されている衛星も多いのです。5~10年後には、軌道上に不良衛星が残っているために新しい衛星を打ち上げられない、という事態が多発するでしょう。そうなると衛星事業者はお金を払って、アストロスケールのような会社に除去してもらわなくてはならないのです。