2019/10/8

ハーバードが学ぶ日本企業

伝統的大企業がイノベーション起こす日本

ところが、日本では、多くのイノベーションが伝統的な大企業から生まれています。特に、日本の鉄鋼、自動車、通信などの業界における技術革新はめざましいものです。日本企業の歴史を見てみると、「イノベーションを起こすにはスタートアップ企業が起業と売却を繰り返すしかない」というのはアメリカ中心の偏った見方なのかもしれない、と感じます。大企業でもイノベーションを起こし続ける方法があるのではないかと。

もしスタートアップ企業しか技術的変革を起こせないのであれば、なぜ日本はこれほど技術大国なのでしょうか。おそらく日本は別のモデルなのです。そうであれば、日本にとって「起業環境ランキング」の順位はそれほど重要ではなくなります。

佐藤 日本人は世界の中でもリスクをとらない国民だといわれています。この国民性は起業形態にどのような影響を与えているでしょうか。

講義中のナンダ教授 (C)Susan Young for Harvard Business School

ナンダ 資金調達の側面から見ると、日本企業とドイツ企業は銀行から調達し、アメリカとイギリス企業は株式市場から調達する傾向が強いのです。日本人とドイツ人よりも、アメリカ人とイギリス人のほうがよりリスクをとって、大きなリターンを狙おうとするからです。そのため前者は大企業の傘下で社内起業を推進し、後者はスタートアップ企業の起業を推進することになります。

しかし社内起業にもメリットはあります。社員が起業しようとする会社のマネジメントの質やビジネスアイデアについて、所属会社のほうが外部の投資家よりも深く理解してくれる可能性が高いからです。

佐藤 つまり日本は独自のイノベーションモデルを維持していけばいいということでしょうか。

ナンダ 世界にとって最も重要なのは、すべての人々が健康で文化的な生活を送れることです。

日本は貧富の格差が小さく、国民の教育水準も高く、社会福祉や医療制度も充実しています。一方、アメリカの医療制度は不十分で、貧富、教育の格差も大きい。アメリカは出産時に女性が死亡する確率が先進国で最も高い国なのです。しかし、多くのスタートアップ企業を生み出し、高い経済成長率を達成しています。

問題は、私たち人間は何のためにイノベーションを起こしつづける必要があるのか、という点です。たくさんスタートアップ企業を創業することが目的でしょうか。新しいテクノロジーを生み出すことが目的でしょうか。それらは手段であって目的ではないはずです。イノベーションの目的は世界をよりよくすることです。人々がよりよい生活を送るために役立つ製品やサービスを生み出すことです。そうであれば、その目的を実現するために、日本は日本なりの方法でイノベーションを起こしていけばいいのではないかと思います。

ソフトバンク、ビジョンファンドにも関心

佐藤 今、興味を持っている日本企業はありますか。

ナンダ 特に興味をもっているのが、ソフトバンクと「ビジョンファンド」です。すでに教材を1つ書きましたが、さらに研究を続けています。ビジョンファンドの存在は世界のベンチャーキャピタル業界全体に大きな影響を与えていると思います。

17年のアメリカのベンチャーキャピタル投資の総額は840億ドル。多くのファンドが5億~7.5億ドル規模で、最大でも10億ドル程度でした。そこに、1000億ドル規模のビジョンファンドが発足しました。ビジョンファンドは、上場間近のレイトステージ企業に集中して投資を行っているため、これまでアーリーステージに投資していたベンチャー投資家は、「レイトステージでビジョンファンドが投資してくれそうな企業」に好んで投資するようになったのです。

さらに日本の仮想通貨関連のスタートアップ企業にも注目しています。この分野は日本が世界を主導してきた分野ですので、今後も注視していきたいと思います。

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ラマナ・ナンダ Ramana Nanda
 ハーバードビジネススクール教授。専門は経営管理。同校のMBAプログラムにて「アントレプレナー・ファイナンス」を教える。主にベンチャー企業が円滑に資金を調達する方法や、金融機関、企業の研究開発部門、政府関係者が効率的に有望なビジネスアイデアやテクノロジーに投資するための方法を研究。多くの企業・団体のアドバイザーを務め、起業家には財務戦略、慈善投資家には貧困問題を解決するための起業支援策について助言している。

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