会社の寿命は20年余り もしもに備えるキャリア形成『会社の終活』福谷尚久氏

35歳までがタイムリミット

銀行員が大量に減らされるという風説がメディアに躍っている。確かに業務の自動化に伴う人員の削減は、大きなうねりとなっていきそうだ。しかし、80年代後半のM&Aがそうだったように、新たな収益のシーズはどこかで芽吹きかけている。それを「天職」にしようと狙う銀行員も育ちつつあるのかもしれない。「一歩、踏み出さないと何も始まらない。納得感が乏しいまま働き続けるのは、もったいない」と、福谷氏は自らの経験に基づいて背中を押す。

M&Aの広がりは、働き手の選択肢を増やすうえでも一役買っている。収益性が見込める部門を切り出す形での独立・分社を、社内にいながら促すこともやりやすくなってきた。例えば、ソニーのパソコン事業が独立したVAIO。すでに創業5年を迎えた。内部からの提言という形で、経営陣に「攻めの分社」を働きかけるアプローチも以前よりは仕掛けやすくなっている。

大企業での経験を強みに、ベンチャー企業や中小企業に転じる戦略も選び得る。技術や財務の幹部職をスカウトするエージェントも増えてきた。「大手で得た知見の広さは、行き詰まっている中小や後継者難に直面している企業にブレークスルーをもたらし得る」(福谷氏)

転職に関しては「35歳までがタイムリミット」といわれてきた。勤め先の色に染まりすぎると、新天地で実力を発揮しにくくなるといった意味があったようだが、福谷氏は別の意味での「35歳説」を唱えている。「35歳までにどんな能力が身についているか次第で、転職先での活躍が決まる」という。見方を変えれば、どんな居場所でも発揮し得る「ポータブルスキル」を早いうちに手に入れておかないと、望む居場所を用意してもらいにくくなるということだろう。自分は何の「職人」であるのかと言い換えることもできそうだ。

5年に1度はキャリアの棚卸しを

人生が長くなっている。先が見えにくいと、つい保守的になり「寄らば大樹の陰」的な選択に向かいがちだ。しかし、企業の寿命が短くなるということは、単一の勤め先に身を任せていては長期的なリスクを抱え込む心配が大きくなるという意味でもある。「働く士気を下げないよう、自らを刺激する意味からも5年に1度程度はキャリアの棚卸しを試みてほしい」と福谷氏は安全地帯に逃げ込みたがる守りのキャリア志向に注意を促す。

本書は事業承継を柱に、M&Aを通じた企業の再スタート事例を紹介している。ただ、新しいノウハウや気づきを得てリスタートを試せるのは、企業だけではない。「長い仕事人生のうちに、何度かの転機を設けて、55歳役職定年で頭打ちになってしまわないキャリアプランを組み立てるのも、“自分オーナー”の才覚次第」。会社の寿命が20年余りだとすれば、70歳までに3度程度の私的M&Aやプライベート事業承継を試すのは、キャリアをしぼませない「我が身経営戦略」として意味を持ちそうだ。

福谷尚久
PwCアドバイザリー合同会社・パートナー(M&Aアドバイザー)。国際基督教大学(ICU)卒、米コロンビア大学MBA、筑波大学大学院法学修士、オハイオ州立大学政治学修士。三井銀行(現・三井住友銀行)、大和証券SMBC、GCAなどを含め、現職に至るまで一貫して、M&A案件のアドバイスを手がける。案件の種類は中堅・中小企業の事業承継のほか、大企業向け業界再編・事業再生・クロスボーダー・敵対的買収防衛など幅広い。

会社の終活

著者 : 福谷 尚久, 土屋 文博
出版 : 中央経済社
価格 : 3,245円 (税込み)

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