通勤電車乗ると吐き気… 不安障害は一人悩まない産業医・精神科専門医 植田尚樹氏

不安障害の中には、社交不安障害の他に「パニック障害」があります。特に電車に乗っているときに症状が現れることが多いようです。すぐには逃げられない状況に置かれることで、強い不安感や恐怖感、動悸、息苦しさ、吐気、発汗、震えなどの「パニック発作」を突然起こすのが特徴です。

社交不安障害とパニック障害は、不安感とそれに伴うめまい、震え、吐気、動悸などの症状と、同じような状況で再び症状が起きてしまうのではないかという「予期不安」を覚えることでは似ていますが、病気としては、恐怖の対象が異なります。

例えば、電車のなかで吐き気を催すものの、他人との外食は大丈夫という場合は、パニック障害であることが多いようです。パニック障害の恐怖の対象がすぐ逃げられない状況であるのに対して、社交不安障害は人前で恥ずかしい思いをすることを恐れます。それぞれ恐れる対象が違うのです。

産業医として面談した出版社に務める26歳男性の事例です。

たびたび出勤途中の電車で体調不良となり、遅刻や欠勤が重なることから、上司が異常を察知したのが面談のきっかけでした。

症状はこうです。出社するため電車に乗ろうとすると、気持ちが悪くなってしまい乗車できない。あるいは、電車に乗れたとしても、動悸や吐き気、目まいを覚えるため、途中下車して遅刻したり、会社へ行けなかったこともありました。

自ら病院で血液検査を受けても異常なし。徐々に会社も休みがちになり、外出すると不安や恐怖にさいなまれるというのです。すぐに逃げられないような場所や、人混みは苦手。電車はもちろんエレベーターも怖いといいます。

明らかにパニック障害の症状でしたので、専門医の受診を指示しました。

社交不安障害、パニック障害の原因としては、脳内の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)のバランスの乱れや、恐怖や不安に関与する脳の「扁桃体」の過剰反応などが考えられています。このため抗不安薬や抗うつ剤など、服薬による治療が可能です。

薬を服用して症状を抑えることで、人前であまり緊張しなくなったり、乗り物に乗れるようになり、徐々に自信を持てるようになります。服薬の頻度、回数を減らしていけば、最終的には飲まなくても大丈夫になります。パニック障害から快復した人の多くは「なぜあのとき電車に乗れなかったのだろう」と不思議に思うほどです。

とにもかくにも、一人で悩むのではなく、できるだけ早期に専門医に相談することが大切です。

また、社交不安障害とパニック障害はいずれもうつを伴うことが多いので、周囲の注意が必要です。職場の責任者であれば、よく本人の話を聞いてあげるのと同時に、こうした病気があるということを知り、理解を深めていただきたいと思います。

植田尚樹
1989年日本大学医学部卒、同精神科入局。96年同大大学院にて博士号取得(精神医学)。2001年茗荷谷駅前医院開業。06年駿河台日大病院・日大医学部精神科兼任講師。11年お茶の水女子大学非常勤講師。12年植田産業医労働衛生コンサルタント事務所開設。15年みんなの健康管理室合同会社代表社員。精神保健指定医。精神科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。

※紹介した事例は個人を特定できないように一部を変更しています。

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