不利な条件でも工夫で成果 ナンシー・ヤマグチさん
米国弁護士(折れないキャリア)
9歳で渡米してシカゴで育った。学者を目指しハーバード大学院に進むが、目標を切り替え地元のロースクールに入り直した。希望通り大手法律事務所に入り、そこで壁にぶつかる。

「魅力的な取引は全部、男性の同僚に回された」。駆け出しの数年間が最もつらかったと振り返る。自信はあるのに、経営に携わるパートナーから大型M&A(企業買収・合併)の担当に指名してもらえない。「回されるのは目立たない小さな取引ばかりだった」
現在は米国の大手法律事務所でも女性が活躍しているが、20年前は「顧客への接待やゴルフなどが幅を利かせるボーイズクラブで女性の昇進は難しかった」という。幹部が部下のために開く毎週金曜の飲み会も、参加するのは男性弁護士だけで女性には声がかからなかった。
「酸っぱいレモンで甘いレモネードを作る」。腐りかけた時はこのことわざを思い出した。不利な条件も工夫すれば成果を出せる、という意味だ。大型案件は上司がチームを編成し、仕事は細分化されるが、小さな案件は担当者に任される。全て独力でやり遂げることで仕事のコツを学べた、と今は思う。
顧客との打ち合わせで隣に座った上司に自分のアイデアを盗まれ、手柄を横取りされたこともある。「君は話さなければかわいい」。今ならセクハラ問題化しそうな発言にも耐えた。
転機は意外な所から訪れた。妊娠後、勤務時間が減ったとの理由で上司からの評価が下がった。「成果を上げていたのに不公平だ」と見切りをつけて退社した。しばらくは企業内弁護士として働いた。
「パートナーに」と声をかけてきたのは、米国ではなく英国の法律事務所だった。パートナーの評価は顧客をどれだけ獲得するかで決まる。照準はベンチャーと日本企業だ。最初に契約を得た日本企業の担当者の言葉が、過去の呪縛を解いた。「ナンシー、君は今のままでいい。男性に似せる必要はない」
数年前に現在の米大手事務所に転じ、社内外の女性のネットワーク作りに力を入れる。「ボーイズクラブに入れないと嘆くより、女性のネットワークを作ればいい」。男性優位の世界で奮闘する女性同士が助け合うことが、後に続く世代の道を開くと信じている。(編集委員 吉田ありさ)
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