社長も部長もない 「対等な議論こそ力」TDK 石黒成直社長(上)

――18年度から新中期経営計画が始まりました。

「『自身のやりたいことを組織としてどう実現するか』『自分のカラーをどう出すか』強く打ち出せるようになるまで、1年ほどかかりました。だから今の中計には強い思い入れがあります。製品だけでなく、その先の顧客の課題解決まで考えたビジネスモデルを確立することなどを打ち出しています。『会社や社会にとって良い』と思うことは積極的に提案していく。自分がどんな会社の姿を目指しているかを関係者に伝えて、賛同を得ることを心掛けています」

「上司の仕事は部下を切り捨てるのではなく、個々の良いところを引き出して、仕事を任せること」と説く

――リーダーとしての原点となった経験は何ですか。

「32歳のときにルクセンブルクへ赴任し、磁気テープの現地生産に関わったときのことです。更地に工場を建てるところからはじめて、生産管理を担当したのがリーダーとしての原体験です。初めて持った部下に日本人はおらず、慣れない英語で話すしかありませんでした」

「初めの頃は失敗の連続でした。製品がうまく作れない、供給が滞る一方で在庫はたまるばかり。朝から晩まで会議で皆に叱られる日々で、1年目に体重が8キログラムも減りました。当時の私は部下と満足に意思疎通ができなかったため、1人で仕事を抱え込んでいました」

上司の仕事は部下を信頼して仕事を任せること

――どのように乗り越えたのですか。

「そんな私を見かねたのでしょう。ある日、夜遅くに会議から自席に戻ると机の上に拙い手書きの生産計画書が置かれていました。部下が見よう見まねで作ってくれたのです。『これで良いですか?』と書かれた文字を見たときに、部下の気遣いに思わず涙があふれました」

「そのとき部下を信頼して仕事を任せることの大切さを学びました。一人では何もできません。組織の皆が働きやすい環境をつくることがリーダーの役割だと感じます」

「私が仕事でうまく行かないときも当時の上司は信頼して仕事を任せてくれました。上司の仕事は部下を切り捨てるのではなく、個々の良いところを引き出して、仕事を任せることです。当時は夢に出てくるほどつらかったですが、今も感謝しています。そんなリーダーシップが会社を強くしていくのだと思います」

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石黒成直
1957年(昭32年)生まれ。81年北海道大学理学部中退、82年東京電気化学工業(現TDK)入社。32歳でルクセンブルクに赴任、磁気テープ工場の立ち上げから運営まで携わる。2004年から主力事業のHDDヘッド事業で生産管理を担当。14年執行役員、15年磁気ヘッド&センサビジネスカンパニー最高経営責任者(CEO)、16年から現職。

(佐藤雅哉)

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