石津「本切羽は表に見える場所で遊べるところでもありますが、優先順位は低いでしょうね。ジャケットを着用したまま腕まくりして顔を洗ったりしないでしょう。僕が一番いじりたいのはゴージラインと襟幅です。ここがスーツの顔なのだから。2ミリ違うだけでずいぶん変わりますから。ゴージの高さをいじったり、襟を広げたりはできるんですか」
猿渡「ゴージも襟幅もいじれます」
――そうしたオプションを加えていくと、すし屋の時価、のように価格がはね上がる不安があります。
猿渡「うちのオーダーではオプションをいろいろ加えても、全体で1万5000円くらいに収まるように設計しています。またゴージの位置や襟幅の変更はオプションではなく補整の範疇(はんちゅう)ですから追加料金はかかりません。価格についてですが、あらかじめ予算を言っていただくのがいいですね。そこに近い形での商品を提供できますから」
――ボタンはどのように合わせればいいですか。
猿渡「いろんなシーンで着たいならば、黒の靴でも茶の靴でも合うよう、両方の色が混じっている感じのボタンをすすめます。こうしてあれこれ選んでいると接客時間は1時間半くらいかかります。男性のみなさんはじっくり楽しみながら注文されますよ」
――試していくうちに目が肥えていき、次はこんなスーツにしてみたいという気持ちになっていきそうです。
猿渡「そうして愛着を持って購入していただいたスーツを通じて、コミュニティーを作っていくのが私の夢です。この店をホテルのラウンジのような雰囲気が出せるようなデザインにしたのも、くつろぎを重視しているから。それこそおすし屋さんになじみのお客さんが集うように、この『作り場』でスーツを作ったおしゃれ好きな人が楽しい時間を過ごせる場所にしていきたいなと考えています」
(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)
服飾評論家。1935年岡山市生まれ。明治大学文学部中退、桑沢デザイン研究所卒。婦人画報社「メンズクラブ」編集部を経て、60年ヴァンヂャケット入社、主に企画・宣伝部と役員兼務。石津事務所代表として、アパレルブランディングや、衣・食・住に伴う企画ディレクション業務を行う。VAN創業者、石津謙介氏の長男。
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