まるで宇宙船 秋風さわやかな東京湾のプチクルーズ
東京の水辺観光が広がりを見せている。ワンコインで楽しめる乗合船の新サービスが始まったり、漫画家の松本零士さんデザインの新船が隅田川でインバウンド客にも人気になっていたりする。秋風がさわやかなこれからの季節、手軽な船旅の魅力を探った。
船着き場を周遊、一区間500円で
東京ウォータータクシー(東京・港)は8月、5カ所の船着き場から隣の船着き場までの1区間を500円で乗船できる「ライドシェアサービス」を始めた。9.10月は金曜日の夜と土・日・祝日に運航する。東京湾や運河を相乗りの小型船で楽しめるサービスで、日の出、田町、天王洲、お台場、朝潮の各船着き場を2ルートで周回する。
例えば、天王洲―朝潮間では、レインボーブリッジをくぐって下から見上げる体験が可能。お台場―日の出の夜便を使えば、夕暮れから夜景へと変わる東京の街を海上から眺めることができる。
所要時間は1区間15~25分で、予約に加え、空席があれば当日の飛び乗りもできる。同社営業・広報チームリーダーの井上結葉さんは「ワンコインで、水辺をもっと身近に感じて、親しみを持つきっかけにしてほしい」と話す。
同社が専用に開発したという小型船に乗ってみた。キャビンには、トイレやエアコン、コンセントを完備。椅子とテーブルもあるので、飲食もできる。定員8人と小型な分、水面が近く、東京湾に出たときのデッキ上での開放感は格別だ。
「観光だけでなく、交通手段としても利用してほしい」と井上さん。天王洲から乗船した20代の男性は「勝どきまでの移動手段として使った。ダイレクトに行けて電車よりも早いし、楽だ」と話していた。
本格的にクルーズを楽しみたい場合は貸し切りもできる。料金は60分3万円。こちらは東京湾や都内の運河など全33カ所の船着き場で乗降でき、運航ルートも自由にアレンジできる。「東京に来たゲストのおもてなし用に利用されている」(井上さん)
井上さんは「魚や水鳥に出合えることもあれば、360度を夜景に囲まれる体験もできる。アトラクション感覚で東京の水辺の美しさを体験してほしい」と続けた。
ユニークな船で隅田川クルーズが楽しめるのは、東京都観光汽船(東京・台東)が運航する「エメラルダス」。アニメに登場する宇宙船を想起させる船体は、漫画家の松本零士さんが「子供が乗ってみたいと思う船」をコンセプトにデザインした。松本さんデザインの船としては「ヒミコ」「ホタルナ」に次ぐ第3弾で、昨年8月に就航した。
浅草―お台場間を約55分で結び、乗船料は大人1720円。同社の金子瑞輝さんは「週末には予約で満員になることも。インターネットで知った外国からのお客さんが撮影に訪れることもある」とその人気ぶりを話す。
銀河鉄道999のキャラクターが案内
白で統一された船内に入ると、大きな窓がいくつもあり、開放的な雰囲気。オリジナルカクテルなどの販売もあり、飲食物を持ち込んで楽しむこともできる。クルーズ中は、松本さんの代表作「銀河鉄道999」のキャラクター、メーテルや星野鉄郎の声による観光案内が流れる。
誕生日祝いで乗船したという都内在住の大学生カップルは「船内でお酒も飲めるし、デザインもユニーク」と満足そう。鹿児島市から家族5人で来たという30代の男性は「宇宙船みたいでかっこいい。東京で船に乗るのは初めてだが、電車とは違う風情があり、移動時間も楽しめる」と笑顔を見せていた。
「川と掘割"20の跡"を辿る江戸東京歴史散歩」の著者で、東京の水辺を研究する九段観光ビジネス専門学校校長の岡本哲志さんは「水辺から見える風景は遠方まで広がりがあり、絵画のように近景、中景、遠景を感じることができる。これは地上ではあり得ない」と魅力を強調。「東京にはいろいろな幅の運河が残っている。気軽に回れるようになれば世の中を見る目も変わる」と話す。
下から見上げるレインボーブリッジや隅田川に架かる橋、水面にゆらゆらと映し出される高層ビル群の明かりなど、船上から見えるものはどれも新鮮に映った。船旅は、見慣れた日常を少し特別なものに変えてくれるようだ。
(ライター 李 香)
[日本経済新聞夕刊2019年9月21日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。