玉置浩二さんの生歌 力を抜かないすごさ(井上芳雄)第52回

日経エンタテインメント!

玉置さんの歌い方だと、歌詞が全部分かります。知らない曲もたくさんあったし、フルオケだから音の反響も大きいのですが、詞がはっきり聴き取れる。それはたぶん、どの音にもちゃんとエネルギーを使って歌っているから。すごく大切なことだと思いました。

それで次の日から、僕がトート役で出ていた『エリザベート』の公演で、玉置さんに倣って歌うようにしてみました。ものまねをしたわけじゃなくて(笑)、例えばファルセットにしても、音を抜くのではなくて、エネルギーを使う。曲の全部をそういう気持ちで歌うようにしました。そうすると調子がいいというか、安定するので、それからずっとその歌い方で通しました。

今年のトート役では、共演者から「最近、歌い方を変えましたか」と聞かれたり、お客さまからも「何か違いますね」と言われたりしたのですが、実はそんな変化があったんです。

音を抜かないというのは、楽をしないということ。楽に音を出せるところはそれなりの力で、大変なところではエネルギーを使うというのではなく、力を振り分けずに、等しく込める感じです。すると高い音だから頑張らなきゃということもなく、ずっとつながっているというのかな。急に頑張ると、「うっ」となったりするのですが、それが全然なくなりました。そういう意味で、歌が安定しました。

小さな声で歌うときも、体全体を使っているけど、出る声は小さくというほうが繊細になります。強弱が失われることにはならず、むしろ小さなところはより小さくなります。

生で聴いたからこそ分かること

これは生で聴いたからこそ分かったこと。もちろんCDで聴いてもすてきなのですが、コンサートの一声目で僕が感じた声の響きは、やっぱり会場じゃないと分かりません。僕も「テレビで見るより、生の方が歌が上手ですね」と言われます。テレビでもCDでも一生懸命歌っているのですが、機械を通すと、どうしても音の振動みたいなものが制限されるのでしょう。玉置さんの歌も、生で聴いて分かることがたくさんありました。

実はそれを再確認したくて、8月に入ってもう一度、玉置さんのコンサートに行きました。今度はご自身のバンドでの公演です。ドキドキして行きましたが、やっぱり完璧で素晴らしかった。体調不良で中断となりましたが、調子が悪いのは全然わかりませんでした。

今年の夏は、玉置さんの歌を生で聴けたのが一番の収穫です。本当に感動したし、とても勉強になりました。忘れられないコンサートです。

井上芳雄
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第53回は10月5日(土)の予定です。

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