バラエティー『逆転人生』 数奇な実話、リアルに体験
特許裁判でアップルに勝った貧乏発明家や、世界最大級のネット炎上を経験した弁護士など、危機的状況を打破した人たちの数奇な人生を紹介する。主人公となる本人をスタジオに迎え、再現ドラマや映像資料、証言などで構成されたVTRを見ながら、ドラマチックな人生を追体験するドキュメントバラエティー。NHKの『逆転人生』は、過去4回の単発放送を経て、今年4月からレギュラー化された。
企画の意図について、制作統括の堤田健一郎氏はこう語る。「今は人生の規定路線がなく、不確実性の時代とも言われています。落とし穴もあちこちにあって、突然どん底に陥ることは誰にでも起こり得る。そんなときに希望を失わず、逆転した人の実話というのは心に響くものになるのではと思い、企画しました」
生きるヒントや学びがあることを重視し、ディレクターを中心に日々リサーチをしているという。手掛けているのは『プロフェッショナル仕事の流儀』などを作ってきた制作陣。ドキュメンタリーのチームのため、再現ドラマの部分には専門のスタッフが入っている。「ドラマの助監督や美術部のスタッフとタッグを組んで作っています。本当につらいところはぐっと入り込めるように、リアルさも追求しています」
この番組の特徴は、見応えは十分だが、重すぎずに見られるところ。失敗談をユーモアたっぷりに紹介したり、テロップにも遊び心がある。ドキュメンタリーは堅苦しいイメージがあり、視聴者層が広がらないことが長年の悩みだったそうだ。「話自体はシリアスですが、少し笑いも入れながら、リラックスして見てもらえるところを目指しています」
そこで重要な役割を果たしているのが、MCの山里亮太だ。主人公に寄り添いながら笑いに変えられる人をと考え、山里を起用した。「こちらの期待通り、完璧です。スタジオで主人公が感極まって涙することもあるのですが、そんな部分もうまくフォローして、ちゃんと笑いを取っていく。冤罪(えんざい)だったり、住民から立ち退きを迫られたゴミ処理場といった難しい題材もやりましたが、社会的なテーマも勉強されていて知識が深い。とても助けられています」
VTRを仕上げた後、スタジオ収録となる。するとコメントやトークで印象が変わるため、VTRを編集し直す。「1回50分を作るのに約4カ月と、とてつもなく手間をかけていますが(笑)、今はここまでできる番組はなかなかない。丁寧な取材から生まれる感動の部分は、NHKが磨いてきたスキルなので、より多くの方に見ていただくことがこの番組の使命だと思っています」
(日経エンタテインメント!9月号の記事を再構成 文/内藤悦子)
[日経MJ2019年9月13日付]
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