落語家イメージ、これはちょっと… それも笑いの種?立川吉笑

特に我々を困らせるのは「落語家は蕎麦(そば)が好き」というイメージ。粋な江戸の落語家は蕎麦を好んで食べると思われている方の多いこと。確かに蕎麦は僕も大好きでよく食べますけど、それは普通に食べ物として蕎麦が好きというレベルの話。落語家に求められているレベルの「蕎麦が好き」というのは、それよりももっと極端で、例えばつゆの濃さとか、箸でつかむ蕎麦の本数とか、薬味の使い方とか、蕎麦に関するあらゆることに確固たるこだわりがあるくらいのイメージです。僕はと言えば、チェーン店の立ち食い蕎麦でも満足できるし、むしろちゃんとした蕎麦屋さんに行くと一人前の量の少なさを物足りなく感じてしまうほどのライトな蕎麦好きです。

実践「蕎麦通の食べ方」

そんな僕に「とある番組で蕎麦通として蕎麦の食べ方を実践してほしい」というオファーがきました。知り合いのディレクターから急きょ収録することになったから助けてほしいと頼まれて、「そんなに蕎麦にこだわりないよ」と断ったけど、どうしてもとお願いされた結果、出演することになりました。

と言っても、その場でいつものように等身大の蕎麦の食べ方をしたら映像的に使いづらいだろうというのは分かるので、ネットで「蕎麦の正しい食べ方」を検索してから収録に挑むことにしました。求められている落語家像に自分を合わせていく作業です。

「蕎麦はたくさんつかむと野暮(やぼ)ったいから6本くらいをちょいとつかむのが粋」。なるほど。口いっぱいに蕎麦を頬張って食べるのが好きだったけど、やめておこう。

「蕎麦をつゆにつけすぎるのは野暮で、下3分の1くらいをちょいとつけて食べるのが粋」。なるほど。つゆにドバッと蕎麦を潜らせてから食べていたけど、やめておこう。

「わさびをつゆに溶かすのは野暮。蕎麦にちょいと乗せて食べるのが粋」。なるほど。これまではわさびもネギも全てつゆに入れてかき混ぜてから食べていたけど、やめておこう。

本当は好きに食べるのが一番おいしいと思っているけど、精いっぱい粋がって蕎麦を食べました。それでも慣れない食べ方だから、蕎麦を6本つかもうとこだわるあまり、不自然なくらいつかむのに時間がかかってしまう。さらに下3分の1だけつゆにつけようと思うも加減が分からず、つゆが一切蕎麦につかなかったり、わさびはその存在すら忘れてしまったり、散々な結果になってしまいました。

うれしい誤算だったのは、そんな僕の食べ方をみたスタッフさんが、「なるほど、ガツガツ食べるんじゃなくて、じっくり食べるのが粋なんですね!」とか「わさびやつゆを使わずに、まずは蕎麦の香りを楽しむのが粋なんですね」と、勝手に勘違いして粋と捉えてくださったこと。

……などと書いてきたこの原稿も、落語家だから手書きしているイメージを持たれているかもしれませんが、実際はカフェでソイラテを飲みながらノートPCで書いています。イメージを裏切ってしまっていたら、ごめんなさい。

立川吉笑
本名は人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。エッセー連載やテレビ・ラジオ出演などで多彩な才能を発揮。19年4月から月1回定例の「ひとり会」も始めた。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)。

これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧ください。

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